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【ハラ(腹・肚)とは】
沖縄県立芸術大学で授業を担当していたときのこと。
その年は履修生のうち、琉球古典芸能を学び、三線と唄を演奏する学生が何人もいました。
この伝統芸能の文化では、「ハラ(腹・肚)」がとりわけ重視されます。
授業では、感覚的かつある種神秘的な概念である「ハラ」を、
実際の歌唱の実践における有用性・効果を確認しながら「物理的・言語的」な次元で理解することをたくさん試みることができました。
「ハラの支え」
「腹圧」
といった、師匠達から受けるフィードバックの中で使われる言葉を、実際に歌が良くなるように、かつ自分自身で具体的に理解できるように受け止めていけるといいね、ということです。
呼吸や歌に関連して頻出するワードの具体的な(物理的な)意味はおおまかには次のように理解することができます。
『ハラから声を出す』
・・・声は、吐き出される空気によって声帯が振動することで生まれます。そして、息を吐き出す筋肉のなかでも強力なのが腹腔を圧縮する筋肉たちです。腹筋や骨盤底筋など。大雑把に言えば、お腹を凹ませ・持ち上げ・絞る、そんな運動です。この運動を強く、あるいは意図的に行いながら息を吐き、その息で声を出そう、ということです。
『ハラを張って』
・・・息をゆっくり落ち着いて吸うと、お腹が膨らみます。この膨らみをわざとキープしたり、後から追加するようにしたりする動作です。ポイントは、息を吸ったときにほとんどひとりでに起きる運動の延長線上で意図的に、場合によっては強力にやること。筋肉としては、横隔膜と腹筋です。
『息を支えて』
・・・ハラを張るのとほとんど同じです。ただし、お腹だけでなく胸など息を吸うときに膨らむ・拡がる場所の、その膨らんだ・拡がった状態をキープしながら息を吐く・声を出すのが「息の支え」です。
『腹圧』
・・・上記の ”ハラを張る” をやりつつ “ハラから声を出す”。つまり、横隔膜と腹筋でお腹を膨らます力をかけつつ、腹筋や骨盤底などから腹腔を圧縮する力もかける。その2種類の力のぶつかり合いから強い力がお腹のなかに生まれるのを感じることができます。
長い年月をかけて伝承され、洗練されてきた芸事の継承者たちが真に行っていること、伝えようとしていることと、もしかしたら一致していない可能性はあります。
しかし、よく聞かれる言葉を、物理的かつ客観的に、そして実用的に理解すると、以上のような理解ができるでしょう。
Basil Kritzer