呼吸法

わたしも吹奏楽部出身なのですが、そこで教わった

「お腹に息を入れる」
「肩を上げるな」
「重心を下げろ」
「無駄に動くな」
「お腹を外に張ったまま保て」



といった呼吸に関することが、不器用かつ才能がなかったからでしょうが全然分からなかったしうまくできませんでした。

しかし、音大を目指したので、うまくならなきゃいけない。呼吸も機能させたい。そういった必要性から出発して、上記のような指示や言葉とはまた異なる着目点、考え方、言語表現を用いた呼吸の理解をちょっとづつ作っていきました。

なので、もしわたしのようにこれらの指示がどーもうまくできない、理解できない、やろうとすると緊張したり逆効果だったりする、と悩みのあるひとはぜひ読んでもらえたら、何か役立つかもしれません。

もっとラクな呼吸法を提案していきます。
– – – – –



その1【お腹に息は入らない】


まず吹奏楽部で教わることと言えば、「お腹に息を入れなさい」ですよね。

しかし、わたしは中学で吹奏楽部に入ってこれを言われたとき、意味が全く分かりませんでした…..。

いや、実はその後ずーっと分からずじまいでした。

それもそのはず。お腹に息は入りません。


息が入るのは、学校の授業で習う通り、「肺」です。

では肺は体のどのへんにあるでしょうか?

まず、体の前面から眺めましょう。




Taste of Torah より引用)


肺は、


・なんと鎖骨のあたりにも顔をのぞかせます!

→自分の鎖骨を見つけてなぞって下さい。そしてなんとそあたりにも肺はあります。ということは、これほど上の方にも息が入るのです!



・かなりの部分が、みぞおちより上にあります!

→自分の胸の真ん中の骨を、上から下へと辿ってください。すると、骨が途切れて、柔らかく凹む場所がありますね?そこがみぞおちです。肺はなんと、「ここから上」にも肺が大きく広がっています。息が入る場所のイメージが変わってきますね!



続けて、他の角度からも眺めましょう。



123RF に使用登録のうえ引用)

・とても横幅があるのが分かりますか?

・腕の内側がふだん触れているところの奥に肺があるのが分かりますか?

・多くのひとが思っているより、横方向にも息は入ってきているのです。

・脇の下から肋骨を下へ下へ辿っていきましょう。そのあたりが全部動いて、肺に息が入るのです。



そして最後に後ろ側。



肋骨左右合わせて24本あって、それぞれが背骨とつながっているのが分かりますか?

背骨とつながる箇所が全部、動きます。

・首の後ろの出っ張っているところから、背中の真ん中にかけて自分の背中を撫でてみましょう

息を吸うとき、こちら側も動いているのです。



さあ、ここまでが息が入るエリアです。

きっと思っていたよりだいぶ上なのではないでしょうか?

あまり文字通りに「お腹に息を入れよう」とすると、このあたりの動きを邪魔してしまい、結局息が吸いにくくなりますし、吐くときも緊張を伴ってしまいます。

「お腹に息を入れよう」と意識するのを一旦やめてみて、いま確認したエリアに「息が入るんだな」と意識するようにしてみてください。

そうすることで、演奏のラクさや、音の質などがどう変わるか試してみましょう。




その2【肩を下げようと頑張らない方がいい】


「肩を上げるな」
「肩は下げろ」

というのもよく言われることですが、どちらも頑張ってやろうとすると害が多いと思います。肩をリラックスさせて、という指示ならよいと思うのですが。

さきほど、息が入るエリアを確認しましたね?

かなり上の方にも息は入ってきて、肋骨が鎖骨のあたりに顔を出しているのが分かりますか?



こんなに上の方が動きますし、また肺に息が入るためには、肋骨が上や横にたくさん動きます。

ということは、肋骨の上にある腕は、下にある肋骨が上に動くその動きに乗って、上がってくるのです。

肩というのは、腕構造の一部です。

したがって、息がうまくたくさん吸えたときほど、肩は肋骨に押されて上がります

ですので、「肩を上げないように」と頑張ると、この動きを邪魔してしまいかねません。せっかくうまくたくさん吸える吸い方をわざわざブロックしてしまうのです。


そして自分の力で肩を下げようと頑張るのは、もっと問題があるかもしれません

なぜなら、肩を下げる筋肉は、「強く息を吐く」ときに補助で使われる筋肉だからです。

これからたくさん息を吸いたいのに、頑張って肩を下げようとしてしまうと、たくさん息を吐く働きのスイッチを入れてしまいます。

これでは、吸おうとしながら吐こうともする。つまり反対のことを同時にやろうとしてしまっています。そんなことをすると、息を吸いにくくなり、体も緊張してしまいます。


そこで、これからはこう考えてみるとどうなるでしょうか?

「息が入ってくるとともに、肩が上がってきたら、『どうぞリラックスして好きなだけ浮動いていいよ』と言ってあげる」


きっと

・たくさん吸えます
・ラクに吸えます

本当にそうなるかは、実際に試してください。


演奏のラクさ、音の質、音量などに改善があれば、あなたの役にたつアイデアだということになります。


〜では、肩を上げるなって何なの?〜

1:上がってもいないのに、ただただそう言われてきたから自分もそう教えているだけの場合
2:首をすくめているのを肩が上がったような印象に感じてそう表現している場合
3:息を最大限に吸えるようにするための肩甲骨の連動(肩甲骨は横/下方向にスライドするようです)のことを表現している場合

3はとても役に立ちます。もし肩を下げる、という教えを受けている場合、それを指している可能性があればもう一度注意深く指示や教えを聞いてみましょう。



その3【横隔膜の誤解を解消しよう】


横隔膜の話もよく出てきます。

〜横隔膜もかなり上にある〜

横隔膜のことを教わったとき、おへその前あたりで手を上下させながら教わったことと思います。

その結果なんとなく、横隔膜がみぞおちより10センチ以上下、おへその前後にあるような「気分」にわたしたちはなっています。

しかし実際には横隔膜は、もっともっと上にあります。



DAVIDLASNIER.COM~ Athletic Development ~ より引用)


肋骨の渕に沿っています
高いところでは、みぞおちより上にあります
ドームの天井のような形をしています

横隔膜は、みぞおちより上でも動いているのです。

やはり、呼吸のイメージが下方向に行き過ぎているケースが多いでしょうね。もしなんとなく思っていた横隔膜が、実際より低かったひとは、イメージを修正しましょう。


横隔膜イメージ修正&形成エクササイズ

・両手の人差し指を、みぞおちのところ、胸の骨の一番したに触れて下さい。
・そこから左右両側へ、肋骨のふちをたどっていきます。
・いまたどったのが、横隔膜が「くっついているところ」です。
・そこからお椀をひっくり返した形みたいに、上方向に横隔膜が広がっています。
・かなり高いところにありますね!



〜横隔膜の動きを整理しよう〜

よく、息を吐くときに、手を下に向かって動かして、「重心を下へ」というようなことを言われたりしますが、少なくとも横隔膜は逆の動きをしています。

・息を吸うとき
→ 横隔膜が働いて(収縮して)ドームの天井が少し浅くなって下りてきます。

・息を吐くとき
→ 横隔膜が仕事をお休みしてゆるみ、また高い天井のように上方向へ戻っていきます。


なので、

息を吐くとき、横隔膜は上へ移動

します。


こういう身体の構造からみると、息を吐くとき(音を出すとき)は、息に関しては下方向をイメージしていてもうまくいかないケースがあってもおかしくないのです。

・とくに役立っている感じがしない
・むしろ吹きづらい

感じがしていれば、息を吐くときは、息の流れを上方向へイメージしましょう。息を口の天井の硬いエリアへ流し続ける、とイメージするのが大変便利です。


…..とは言いつつも、息を吐くときに横隔膜が上がる、というのは「普通の呼吸」のはなし。


管楽器の演奏や歌を歌う時は、息を吸う時に横隔膜がONになった後(下がってくる)、息を吐く=音・声を出す時に「横隔膜をさらにONにする/ONを保つ」ようなことをできると呼吸のう操作能力がアップします。

この感覚をつかむには次のようにしてみましょう。


1:仰向けになり、膝を立てます。足の裏は地面に着くように。
2:胃.みぞおちのあたりに重い本を置きます。
3:息を穏やかに、でもたくさん吸います。
4:すると、お腹が膨らんで本が動きますね。仰向けのとき、本は天井方向に動きます。
5:息を吐きます。
6:もう一度息を吸います。今度は、さっきよりさらに本を天井方向に行かせることを意識して。
7:息を吐きます。しかしなるべく本の位置を天井よりに保とうとして。


この、6・7のところで感じる力・労力・仕事が、おそらく横隔膜の感覚です。
この横隔膜を使う感覚を、息を吸うときにどんどん促してみましょう。
また、息を吐くときも使えます。息の流れの安定に作用すると思います。


!!注意点!!

・背中や腰を反っては元も子もありません。それは横隔膜の力ではありません。
・本を天井方向に動かす/保つ力=お腹が膨らむ力=横隔膜の力です。腹筋の力ではありません!この時点で腹筋を固めないよう、注意。


横隔膜の通常の動きについては、こちらの映像がとても分かりやすいです。






その4【全式呼吸】

そもそも、

「腹式呼吸」
「胸式呼吸」

という言い方・分け方自体が、かなり問題があると思います。

なぜなら呼吸はいつでも

胸やお腹だけでなく全身が大いに関っている=「全式呼吸」

だからです。

これからは、「全式呼吸」で考えていくようにしましょう。

ここまですでに、

・みぞおちから上の広い範囲
・肩

が息を吸うときに動いていることは述べました。

あとは、呼吸に深く関っているのに存在を忘れられがちな場所や筋肉たちをいろいろ紹介します。
そうすることで、「腹式」「胸式」という分け方がちょっとナンセンスなのが感じられると思います。

いかに「全式」か、イメージを広げていきましょう。


〜首も関係している〜

たとえば、息を吸うために働く筋肉が首の奥にあります。

これらの筋肉は、肋骨を上から引き上げてくれるのです。


「斜角筋」


〜腕も関係している〜

腕の土台である肩甲骨。

その肩甲骨と肋骨をつなげるこの筋肉は、肋骨を引き上げて息を吸うことを手伝います。




〜脚も関係している〜

まずは、横隔膜。それの下端に注目。腰椎(背骨)に付いているのが分かりますか?




次の画像は、「腸腰筋」と呼ばれるグループです。腰と脚を結んでいます。脚を動かすいちばんの大黒柱であり、腰を安定させる土台でもあります。

そのパワフルな筋肉グループの上端が、横隔膜の下端と重なるのが分かりますか?
また、肋骨突起ともつながっています。
そこから、脚の上部までつながっています。



つまり、脚も呼吸に深く関係しているのです!


〜お腹ももちろん、重要です〜

お腹の筋肉は、もっぱら「息を吐く」ために働きます。

その「お腹」も思っているより遥かに広い範囲に及んでいます。


まずはみなさんが思っている「お腹」は正面のことがメインでしょう。その正面のお腹にしても、実はこんなに長い筋肉なのです。なんと、肋骨から、恥骨まで及んでいますね。



身長175センチのわたしの場合、60〜70センチくらいありそうです。


次に、脇腹も。ここにも息を吐くことに使われる筋肉がありますす。

ほら、前から後ろにかけて、ぐるっと取り囲んでいますね。しかも、3層構造になっています。

1層目



2層目



3層目





後ろ側。これも息を吐くのを助けています。




最後に、いちばん忘れられがちなのに、実はすっごく重要な「お腹の底」

これも何と息を吐くうえで非常に大切な役割を果たしています。

正面から見ると



上から見ると



下から見ると




ほんとうに胴体のいちばん下にありますね!!

ここまで、呼吸の意識を広げましょう。


ちなみにここは、横隔膜と真逆の動きをします。

・息を吸うとき
→ ここががお休みしてゆるくなり、骨盤の中へ下りてきます。

・息を吐くとき
→ ここが仕事をして張り、内蔵を上に押し上げます。


(お腹に息を入れる、という比喩やイメージは、骨盤底まで意識を向けること、そして息を吸うときの横隔膜が結果的に下がる動きを促すうえで役立っているから使われてきたのだろうと思います。)


さあ、これでいかに呼吸が全身が関与しているかが見えてきたと思います。

もう、腹式呼吸か胸式呼吸かで思い悩む必要はありません。動くところがいくらでも動くことを大歓迎して、「全式呼吸」でいきましょう!




その5【お腹の力でお腹を前に出そうとすると吹きづらい】

よく、

「お腹を前に出す」

とか

「お腹を外に押し出して張りを保つ」

というようなことを教えられますね。


いまは時代が代わってあまりないかもしれませんが、わたしが中学生のときは、先輩がその手本を示してくれて、先輩のお腹をドンドン叩かされました。

「これぐらいしっかり張って、押されてもびくともしないぐらい固めるんだ!」

という感じで教わったものでした。


わたしにとっては息を吸うのにも吐くのにも、どちらもマイナスになりました。


というのも、このやり方では

「自分のお腹の力でお腹を前に出そうとしている」

からです。


なぜ、それだと吹きづらいか?

お腹を前に出す筋肉は、お腹にはないから

です。


「自分のお腹の力で一生懸命お腹を前に押し出そう」としていても、お腹にはそれができる筋肉はありませんから、代わりに全然別の場所を使ってしまっています。

先述の通り、お腹を膨らませるのは横隔膜の動きの作用です。

多くの場合、お腹でお腹を膨らませようとして背骨を曲げてしまっています。

骨盤を前に押し出して、背骨の下の方(腰椎)を曲げて、腰椎の本来のカーブの形を歪ませてしまいます。

お腹、腰椎、骨盤、といったあたりは、呼吸に関してとても大切な場所。そこにずいぶんと無理をかけてしまっているのです。




その6【息を吸うとき、お腹は緩んでいてほしい】


では、なぜ「お腹を前に出す」ことがこんなにも言われるのでしょうか?

それは、深く呼吸ができているときは、確かにお腹が前に動くからです。


でもそれは

「お腹が動く」

のであって、

「お腹を動かす」

のとは全くちがいます


この言葉のちがいは、言葉だけだとどうでもいいことのように思えるかもしれませんが、身体にとっては全く意味がちがいます。


「お腹が動く」は、お腹が緩んでいることを意味します。

「お腹を動かす」は、お腹が働いていることを意味します。


なるべくたくさん息を吸うときは、お腹が緩んでいてもらいたいのです。


息を吸うと、横隔膜によって内蔵が動かされます。それにより、お腹が内側から動かされて、外見上は「前に出た」「膨らんだ」ように見えます。

しかし、これは決して「お腹の力」で「やる」ものではなく、お腹が緩んでくれていてはじめて「起きる」ことなのです。

それを「やろう」とするから、身体が硬くなって吹きづらくなってしまいます。


また、

お腹の筋肉は息を吐くための筋肉

です。


それを吸うときに力ませてしまうと、吸うと吐くを同時にやってしまって、吸いも吐きも量的に最大ではできなくなります。

なるべくたくさん息を吸いたいときは、お腹にはゆったりお休みしてもらって、緩ませてあげてください。




その7【お腹は吐くときに働く】


さあ、お腹の出番は息を吐くとき、つまり音を出すときです。

お腹の力は、息を吸うためでなく、音を出すために使いましょう。

では、どうしたらお腹の力がうまく使えるでしょうか?

詳細は「息の圧力の作り方」を参照して頂きたいのですが、

ポイントとしては次のことを意識してください。


① 上記で確認した骨盤底のイメージを積極的に活用してください。お腹のことをイメージするときは、できるかぎり先に骨盤底を。そして骨盤底のイメージを継続しながらお腹に。

② お腹の筋肉は息を吐くとき、まず「中」「内」方向に動きます。お腹が絞られるような感じです。(ちなみに横隔膜はこれに対抗します。そうすることで拮抗が生まれ、圧力や安定を生み出せるのだと思います)

③ もっと音を出していくにしたがって、お腹は下から上へ「上方向」に動く感じがするでしょう。

④ 普段の呼吸に比べて、胸部は思いっきりしぼませることも、なかなかしぼませずに保つこともできます。その両方をやってみてそれぞれの感覚や効果を味わい、レパートリーに入れておきましょう。



〜重心〜

よく、「重心を落としなさい」と言われることもありますが、それもちょっと漠然としすぎていますし、分からないままやろうとすると、この「お腹と息が上に動く」感覚を「ダメなんだ」と思ってしまいかねません。

なので、わたしは、「重心を落とす」というアイデアは、とくに役立っている実感がなければ、それにはこだわらずに、息の流れや身体の実際の動きにイメージを合わせることをオススメします。

重心を落とす感覚には二通りの可能性があるとわたしは思います。

① 横隔膜をおもいっきり使う感覚。横隔膜が下がってくる力が腹腔にかかります。これは骨盤底/足の裏方向のちからです。立っているとき座っているときは「下方向」のちからです。ですから「重心を下げる」という表現につながる可能性があります。実際、呼吸や姿勢の安定効果があると思います。

② 腰を落とす感覚。具体的には、股関節、膝、足首を曲げる動きです。お相撲さん四股のような動きの、量的に少ないバージョン。これも呼吸や姿勢にパワーと安定を生み出してくれるように思います。気をつけたいのは、多くのひとが股関節を曲げそびれていて、尻尾を巻くような姿勢になってしまうこと。腰を落とす、重心を下げることをやっているつもりで実際には不安定な固定を生み出してしまいがちです。なかなか高度だと思います。スキーのジャンプの姿勢をイメージするとやりやすいかもしれません。


以上、呼吸に関してかなりの範囲をカバーできたと思います。

あなたの役に立つ事を願っています。


P.S.感想やご質問はいつでもお気軽に basil@bodychance.jp までどうぞ!

❇︎引用元が画像下に示されていない画像はいずれも、Visible Body Muscle Premium から購入したアプリを使用・引用したものです❇︎