【不安という怠慢】

【不安という怠慢】

ある日のレッスンでこんな場面がありました。

フルートを演奏される方とのレッスンです。

ある音を長く伸ばし続ける箇所がうまくいかないのを改善したいというテーマでした。

まず演奏してみていただいて感じたのは、
音質や音の響き・鳴り方にほとんど関心が行っていないな、ということでした。

ただ音を出して、ただ伸ばそうとしている。

そこで、空間の反響音・残響音を聞くことを、そのやり方を実感できるエクササイズ付きで提案しました。

やってみると、すぐにある程度は響きが豊かになりました。

しかし、「どうでしたか?」と尋ねても、ひたすら「よくわからない」「それどころではない」と仰るのです。

音の立ち上がりがうまくいかなかったので、そのことを気にしていらしたのですが、
うまくいかなかったことに100%意識が持って行かれて、改善のための工夫や途中経過に注意を向けることがまったくできない状況でした。

とにかく、「ミスせずに音を当てる・伸ばす」。
その結果が欲しくて欲しくて….という感じです。

そこで、音の「外れ方」を分析しました。

起きていたことは、オクターブ下の倍音が鳴ったり、その音に完全に切り替わってしまっているということでした。

その原因は、望んでいる音を鳴らすのに必要な「動作・作業」が不足していたことにあります。

従って、音を上げる方法を明確化しました。

ご本人の知識やお考えを踏まえて、それは「息の勢いを強くすること」および「息の流れる角度を上げること」と定め、
それを意識的に実行する練習をしました。

すると、最初より明らかに音は素直に鳴り、安定しました。

….しかし!!!!

それでおも、その方はあまり嬉しそうでない。
何かまだモヤモヤしている様子でした。

何を感じて、何を考えておられるのか言ってみてくださるようにお願いすると、

「このやり方が本番でちゃんと再現できるか、不安だ」

ということを仰られました。

うまくいかない、ミスする可能性というものは、いつだってあるのが真実です。

しかしご本人とっては、そんな事実をいくら言っても、
改善をもたらすやり方をいくら理解しても、

「結果が出せないと意味がない」(本人談)

ということなのです。

そこで、

「結果が出せなかったら、どんなことが起きてしまうとお感じなのですか?」

と尋ねてみました。

すると、

「いまいる場所にいられなくなるんじゃないかと、不安なのです」

と語ってくださいました。

次に、その不安は現実的に起こりうるものなのか、それとも常識的には考えにくいことなのか、尋ねました。

本人よると、どちらかといえばあまり現実的ではないとのこと。

それでも、非常に不安で、結果が欲しい、
いや、結果だけが欲しくて仕方がないのは揺るぎないのでした。

不安は、苦しいです。

結果が欲しくて頑張っているのは確かです。

・・・でもその実、不安にとらわれて、結果だけをとにかく欲しがることにより、

実はその結果を得るために必要な作業を「する」ことであったり、その作業に習熟するために「練習」することに対しては、意欲を持てないでいるという構図になってしまっているのが分かるでしょうか。

必要なことをやる努力。
結果を出す「可能性」を高める努力。

頑張ってはいるし苦しんでもいるのに、肝心の努力があまりできていない。

努力しようという気持ちになれない。

結果だけを望んでいる。

そういう状況になってしまっていたのです。

実のところ、「怠慢」になってしまっていたのです….!!

これはなかなかショッキングな指摘ですから、わたしもちょっとドキドキしながらそのことをお話ししました。

幸いにも、よくご理解いただけました。

で、ここからが大切なのですが、

「怠慢な自分でいるわけにはいかない!頑張るぞ!」

なんて単純に切り替えるなんて、なかなかできるはずもありません。

わたしは、

「実は努力を億劫に感じている自分を、よく眺めること」

を宿題として提案しました。

不安は、いまできることややるべきことから自分自身を引き離すという点で、
なんらかの形で「怠慢」でもあるのです。

不安で、苦しんで、それでも頑張っている一方で、
その中には実は「怠慢」がある。

その「怠慢」にこそ、興味と好奇心、観察眼を向けてみたいのです。
批判や叱咤は意味がありません。観察こそが必要です。


何か、無理していないでしょうか。

何か、コントロールできないことまでコントロールしようとしていないでしょうか。

何か、自分らしくないことにしがみついていないでしょうか。

これを読んでいるあなたも、ぜひちょっとだけ、考えてみて下さい。

Basil Kritzer

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【不安という怠慢】」への6件のフィードバック

  1. 音楽科の教員、そして金管バンドの指導をしている私にとって、共感することの多い内容です。
    演奏を失敗することや吹けないことへの不安感は多いのに、それを改善するための練習や努力をしていない児童が多いと感じます。正直、練習に意欲が感じられないと思うことが多くあります。
    児童も頑張っているとは思いますが、努力が空回りというか、クリティカルなものになっておらず、惜しいなと思うことがあります。

    私自身はチューバ吹きで、吹奏楽団での演奏を行っていますが、先生のおっしゃっている、「必要なことをする努力」「結果を出す可能性を高める努力」というものは、自分の中では当たり前のものとして認識されているものです。
    ただ、目の前の子ども達にとっては、それが当たり前ではないのですね。
    そのギャップがあって、指導が難しいと感じています。
    今回のお話、参考にさせていただきます。

    • なかさん

      コメントありがとうございます。
      (もしかして、京都の先輩でしょうか?)

      「素敵な・楽しい演奏をしたい」とはっきりと思っていること自体が、実は「普通」ではないのではないかな、と思います。
      そういう気持ちになってもらえるように、音楽の楽しさを体験してもらえるようにするのが、わたしたち指導者の役割ですね。

      いざ、「素敵な・楽しい演奏をしたい」と思うようになったら、「それができるようになっていく」道筋を、実感と楽しさとともに示したり教えてあげたりするのもやはり指導者の役割なんだと思います。

      良い先生や良い先輩に恵まれることは、音楽の楽しさを知り、より素敵な音楽を実現するための努力をぜひしていこうと思えるようになるうえで、必須かつ幸運なことなのかもしれません。

      Basil

  2. 返信ありがとうございます。
    残念ながら、京都の先輩ではございません(^_^;)

    「良い演奏をしたい」「音楽を楽しみたい」という気持ちを、まずは土台として育てることが必要ということですね。その土台作りが、まだ不充分なまま、技能や態度を身につけることを少し急いていたかもしれません。指導者として、私自身が長い目で児童の成長を見ることができていないのかもしれませんね。反省と今後の課題としたいと思います。

    大変参考になりました。指導者として精進していきたいと思います。
    ありがとうございました。

    • なかさん

      先輩じゃなかった….ちょっとホッとしました(笑)

      今後ともどうぞよろしくお願い致します。

      Basil

  3. トランペットを吹いています
    今悩みが3つほどあります
    まずは技術的な悩み2つです
    高音の練習をしているのですがなかなか綺麗に音が出ないです
    ハイベーくらいならわりと綺麗に出せるのですが特にハイデーより上になったら綺麗に出せません
    具体的に言うと音がかすかすになる、途切れ途切れに鳴る、唇が振動しなくなって音が切れる
    ロングトーンをすることができません
    無理矢理出しているような感じになります
    ハイエフくらいまでは曲で使えるようになりたいです
    どうしたらいいでしょうか?
    次はタンギングです
    タンギングが究極的に苦手でテンポ100の16分音符でもきついです
    2小節くらいならできるのですが音がぷつぷつ切れてテンポが下がってしまいます
    またダブルタンギングは一定のテンポで吹くことができません
    どうしたらいいでしょうか?
    最後に今1番悩んでいることです
    楽器の練習をしたら自分の不甲斐なさが原因かはわかりませんがとてもイライラします
    楽器に当たってしまいそうなくらいイライラします
    必死に抑えようとしているのですがイライラして練習になりません
    楽器を吹くことは好きだし音楽も好きなはずなのですが吹きたくないって思ってしまいます
    落ち着こう落ち着こうとしているのですが全然だめです
    こんなんでは3月にある定期演奏会でいい演奏ができるとはとても思えません
    色々事情があり1年半くらい楽器を吹いていなかったので後輩や同級生にまずは追いつこうとしているのですが…
    嫌になってしまいます
    色々解決法とか調べて実践してみても効果はまったくありません
    最後の頼みの綱でバジルさんに頼ろうと思いました
    本当にお願いします
    どうしたらいいでしょうか?

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