もっとラク〜に吹きなはれ

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わたしは京都府の高校に通って、吹奏楽部でホルンを吹いていましたが、思い返すとそのときに、

「力を抜いて演奏する」ことの大切さ

に触れたことがありました。

そのときの体験は、いまにとても影響していうと思います。

その体験をもたらしてくれたのが、大阪市音楽団(現・大阪シオンウィンドオーケストラ)で当時トランペット奏者を務めておられた、竹原先生です。

【怒号の夏】

たしか、高校一年の夏のコンクールの時期だったと思います。

わたしの通っていた学校は、毎年のように京都府大会で金賞を受賞してはいたのですが、もう何年も代表に選ばれて関西大会に進出することはできずにいました。

ですが、前年、前々年と先輩たち(中高一貫校だったのでその先輩たちとも毎日一緒に部活をしていました)は非常に高い意識でコンクールに臨んでいたため、例年にはないような本当に素晴らしい演奏をなさっていました。

にも関わらず、あと一歩のところで代表を逃す、ということが続いていたのです。

これには当時の顧問の先生も忸怩たる思いを持っていたようで、わたしが高校一年でコンクール出場バンドに参加した年には、絶対関西大会に連れていくと燃えていらっしゃいました。

ただ、その熱意がちょっと仇となってか、練習は非常に厳しく、怒号やときには指揮棒が飛んでくることも….。

金管楽器セクションは毎日のように、「もっと出せー!もっと気合入れろー!そんなヘナチョコな音ではダメだ!」と叱られていました。

それもあって、金管楽器セクションは力みっぱなしで、音が荒れ、みんなバテ気味でした。

【もっとラクにしなはれ】

そんな時期のある日、大阪市音楽団(現・大阪シオンウィンドオーケストラ)で当時トランペット奏者を務めておられた、竹原先生が合奏指導にいらっしゃいました。

その前年、中学生のころ、高校生のバンド練習を見学していたときにたまたま竹原先生がいらっしゃっていたのですが、練習中に音がものすごくキラキラと輝き出し、迫力はあるのだけど透明感がある素晴らしい演奏に変化していったその場にいたので、竹原先生の指導を自分も体験できるのがとても楽しみでした。

練習会場に入って来られた竹原先生は、思いの外小柄で、どことなく飄々とした雰囲気でした。

いざ、合奏が始まると、ものの1分くらいで竹原先生は指揮棒を止め、こう言いました。

「もっとラク〜に吹きなはれ」

それまで、「ダメだ、ダメだ、もっと出せ、もっと鳴らせ」と毎日のように怒鳴られていたわたしは、ちょっと面食らってしまいました。

……そんなことしたら、顧問の先生に怒られちゃう…..

正直そう思ってしまいました。

しかし、竹原先生は

「いっぺんやってみよな」

とわたしたちを促してくださいました。

そのあと何度か、竹原先生は「もっとラクしてええで」「もっと軽〜く吹いてみなはれ」とわたしたちを導いていきました。

すると….

曲中の、金管楽器群が最初にファンファーレのようなものを演奏する箇所で、これまでになく美しく、しかも大きく、わたしたちの音が響いたのです。

しかも、音程もとても美しく調和していました。

なんだ、これは!?

それまで、良い演奏・高いレベルの演奏をするには、凄まじく頑張って、苦しんで演奏しなければいけないようにどこかで感じていたわたしの思い込みは、この体験を以って大いに揺さぶられました。

そして、竹原先生のおっしゃる

「ラクな吹き方」
「力を抜いた演奏」

というものが、ほんとうに素敵な音・音色・響を生み出すものなんだと思い知らされました。

【心の支えになった言葉】

その合奏中、竹原先生は一貫して何度も、「もっとラクに」「もっと力ぬいてええねんで」とわたしたちに声をかけ続けてくれました。

そうすると不思議なもので、音は実によくブレンドし美しく、しかも全然バテないのです。

「コンクールで結果出しとるバンドのなかにも、なかにはこうして吹いとるところもあるよ」

「うちら(大阪市音楽団)、こうして吹いてんねんで」

「こうしたほうが、うまくいくし綺麗やろ」

その言葉が、わたしにとってはその夏、とても大きな支えになりました。

竹原先生が帰られた次の日から、結局「もっと出せ〜!」と怒鳴られる日々が始まりはしたのですが(笑)、いちどリアルに得た体験は、わたしの気持ちを大きく変えてくれました。

力を抜いた吹き方、というものを意識し大切にすることで、わたしはその大変な夏のコンクールシーズンを乗り越えることができました。

そして、この経験こそが、いま思えば「どんな吹き方をしているか」ということを深く考え始めるきっかけだったように思います。

それが、高校のうちにアーノルド・ジェイコブズ(故人・シカゴ交響楽団チューバ奏者)の教えに惹かれ、そこからアレクサンダー・テクニークに関心を強めていった大きな理由のひとつだったのだろうと思います。

こうした、実際にプロとして吹奏楽を演奏しているプレイヤーの感覚・教え方が、もっともっと学校吹奏楽に共有されていけば素敵ですね。

ぜひ、そうなっていきますように!

Basil Kritzer

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