【アンブシュアタイプの発見】

アンブシュアタイプ研究の源流である故ドナルド・ラインハルト(1908-1989)が、どのような経緯でアンブシュアタイプやアンブシュアモーションという着眼点を持つに至ったのか?

それについて、ラインハルト自身の著書『ENCYCLOPEDIA OF THE PIVOT SYSTEM(ピボットシステム事典)1964』の序文において述べられています。

ここで述べられていることは、なかなかに劇的です。どこまでが真実で、どれくらい脚色があるのか、私には分かりません。

2014年にボストン大学の音楽学位論文でブライアン・クックがラインハルトの生涯とメソッドを資料研究したものが存在するので、そちらにも遠からず目を通したいと思います。

さて、ラインハルトの語る経緯とはこのようなものでした。

***
【アンブシュアタイプの発見】
***

《金管楽器への報われない情熱》
ラインハルトは4歳のときに6穴式のフラジオレット笛を買い与えられ、簡単な曲はいくつかすぐ演奏できるようになった。音楽に興味を持ち、マンドリン、ドラム、ベース、ピアノをおもちゃ代わりにした子供だった。

八歳でバイオリンと音楽理論のレッスンを受け始める。しかし十歳にならないうちから金管楽器、とりわけホルンに強く惹かれる。

父親に頼み込み続け、ようやく11歳の頃、ホルンの手ほどきを受けに行ったが、「前歯が不揃いであるから一生吹けないだろう」と告げられた。落胆し今度はトランペットの教師のレッスンを受けに行ったが、同じことを言われたさらに落ち込んだ。

しかし数ヶ月後、父親がトロンボーン教師と話をし、トロンボーンの大きなマウスピースであれば前歯のことは問題にならないだろうとのことで、念願叶いトロンボーンのレッスンに通えることとなった。

《苦難》
はじめは順調だった。しかし、教材のレベルが上がるにつれ、メカニカルな問題として音域の狭さと耐久力の無さという問題が突然生じるようになり、一向に改善しなかった。

一人目の先生、そのことを気にしないように言い、練習を続ければ良くなると言ったがこれは間違いだった。与えられたエクササイズに毎朝一生懸命取り組んだが高音はかすりもしなかった。一年半経って、「このような問題」の専門家なる先生を紹介された。

二人目の先生はロングトーンを毎日練習することがアンブシュアを鍛えて高音につながると指導した。言われた通りに徹底的に取り組んだが、アンブシュアはむしろ弱体化した。数ヶ月後には唇がすっかり硬くなり柔軟性を一切失った。音はぼやけて重くなった。この先生も困って、トランペットの教師を紹介された。

三人目の先生であるこのトランペット教師は、ラインハルトの状況は高速のリップスラーをたくさん繰り返す必要があるものと考えた。ラインハルトはそれが論理的に思えたので、このメソッドに没頭して取り組んだ。半年後、改善はなかった。このトランペット教師も匙を投げ、別の教師を紹介された。

ラインハルトはこうして、13年間で18人の教師に師事したが、音域と耐久力の問題は改善することはなかった。

仕事で吹くようになっても、できるのはバストロンボーンか2ndトロンボーンの音域の仕事だけだった(註ジャズやスタジオワーク)

《教師たちの無益な言葉》
改善しなかった13年間言われたこと

「君は辛抱がない」
→13年間頑張っているが。

「マウスピースが合ってない」
→数百本持っているが。

「マウスピースが真ん中に当たっていない」
→完全に真ん中の奏者はいないが。

「楽器が壊れている」
→28本楽器を持っているが。

「腹ベルトを着けてそこに向かってお腹を押し付ける吹き方をしろ」
→危うくヘルニアになりかけた

「木管楽器に転向しろ」
→いやいや、トロンボーンのレッスンを受けに来たのだが。

「休みなさい」
→稼がないといけないのだが。

「低音を鍛えたら高音が出る」
→あと一歩で吹けなくなるところまで悪化した




などなど。

《ある偶然》
ある日、楽器を倒し壊してしまい修理に出した。そのときリペアマンがバランス重しを戻し忘れた状態で返却してきた。そのため、ベルに重心が寄り、楽器が前に傾くかたちで吹いた。

すると、わずかながらハイBbが吹けた。人生初のハイBbだった。驚きとともに、この現象を分析すると、角度と重心が変った楽器で吹くと、下唇の赤いところが巻き込まれ下の歯に少し被さるようになっているのが分かった。顎がこれまでより後ろに引き、それが下唇の巻き込みを可能にし、結果的にアンブシュアの圧縮が増えていた。

ここから、音を上がるにつれ下唇の赤いところが巻き込んで見えなくなるようにするのが良いのではないかと推論した。試してみると、ハイFがかすった。人生初。大筋間違っていないことを確信した。

《研究の始まり》
これをきっかけに、多くの金管奏者の奏法を研究し始めた。様々なサイズのビジュアライザーを自作し至近距離から観察した。すると、自分とは正反対の唇の使い方で高音を生み出す奏者もいることが分かり、それが「息が上向きに流れる奏者」と「息が下向きに流れる奏者」の存在に気づかせてくれ、ピボットシステムの基礎となった。

研究に没頭するうちに、アンブシュアと顎の使い方から、4つの主類型と5つの副類型の計9種類のアンブシュアタイプに分かれるという見方が整理されていった。

自身の類型を理解し固有のピボット(註=アンブシュアモーション)を見出して以降は、音域や耐久力の問題はすべて解決した。

その後2年間に亘り、あらゆる金管楽器の奏者に無償で診断と指導を行い、この方式の有効性に確信を得た。

– – –
参照①
ドナルド・S・ラインハルトの教育法〜9つのアンブシュアタイプ〜

参照②
息の流れの方向と金管のアンブシュア
– – –

ブログでは読めない話もたくさん!ぜひメルマガをGET♪

レッスンの申込や出張依頼などについては、こちら!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です