【47人の「食えている音楽家」に共通する、収入源のマルチ化】起業家的音楽家Vol.4〜ジェフ・コナー最終回〜

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ボストンブラスなどで活躍したチューバ奏者、アンドリュー・ヒッツ氏が主催するプロジェクトが『The Entrepreneural Musician』。日本語にすると、『起業家的音楽家』です。

今回は、ボストン・ブラスの創設メンバーで、1986年からいまでもグループの活動を中心となって続けているトランペット奏者、ジェフ・コナーがゲストです。

4大陸30カ国でコンサートをするほどの世界的なグループにまでいかにして成長したか、グループ解散の危機を呼んだあることについて、そしていかにして日々仕事を呼び込むか、その飽くなき営業戦略と人脈作りの努力を語ってくれます。

前回はこちら→『一年先は無収入。その事実が家族を支え仕事をする「やる気」を引き起こす』

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【47人の「食えている音楽家」に共通する、収入源のマルチ化】

Andrew
『ところで、君は“The Portfolio Musician: Case Studies in Success” という本を書いているね。(訳注:金融業で使う「ポートフォリオ」(資産配分)の意味の転用でこの場合使われている)』

Jeff
『そうなんだ。この本の大半は、インタビューで構成されている。登場する音楽家たちはキャリアの様々な段階にあって、何人かは大学を出たところでキャリアを歩み始めたばかりの者もいるし、キャリアの形成途中の者もいる。そして30年から50年も音楽業界でやってきている人たちもいる。ボビー・シューなど。

この本の目的は、読者がここに登場する音楽家たちのストーリーと自分を重ねて手本を見つけたり刺激を受けたりしてもらえるようにすることだ。自分もぜひやりたいことは何だろう、自分にもできそうなことは何だろう、これはやってみようと思えることは何だろう、と考えてもらえるように。

インタビュー以外にも、わたしや共著者がそれぞれ一章ずつ書いている。Ebookにもなっているよ。』

Andrew
『インタビューされているひとたちん共通項もわかってくるし、読んでいると音楽の世界で生きて行くうえでもはや無限の道筋が歩めるように思えてくれる。素晴らしい本だ。』

Jeff
『そう。音楽の世界は非常に広大なんだ。

この本を作っていてひとつわかってきたキーポイントは、「ひとつのことにすごく長けろ。そしてほかに二つか三つ、上手にできることを持っておけ」ということだ。そうであれば、音楽の世界でしっかりやっていける。

まずひとつのことにしっかり努力して非常に優れてできるようになれ。そしてほかにもできることを身につけておく。音楽の世界は誰しもポートフォリオ的な生き方をして複数の収入源を持つことで成立するんだ。

演奏だけでなく、たとえばエンジニアリングができてプロデュースができるとかね。ボストンブラスのメンバーのサミュエル・ピラフィアンもそれができて音源制作にたくさん取り組んでいるだろう。あるいは作編曲ができる、とかね。

そうやって、自分ができる「ほかのこと」を見つけて、それもひとつの収入源としていくんだ。』

Andrew
『この本を作ろうと思ったきっかけは何だったんだい?』

Jeff
『共著者のジョン・ラバーティとは、2000年代の終盤のリーマンショックの不景気の頃に、会うたびに、「仕事はどうだい?」「去年より仕事は増えているか?」といったことをよく話していたんだ。不景気に打撃を受けてないかと、お互い気を遣いあってね。

でも話していると、二人も相変わらず頑張って働いてはいたけれど、不景気で打撃を受けてはいなかった。ほかにもそういうひとたちがいるね、という話になったんだ。それで、「どうして、変わらず仕事をやっていけているひとたちと、苦しんでいるひとたちがいるんだろう?」という会話に発展していった。

そこから、「じゃあインタビューして、どうしてこの荒波のなか生きていけているのか本人たちに聞こう!」ということになった。

その結果出来上がったのが、47人のインタビューを含むこの本、というわけさ。金管楽器奏者だけでなく、中学から大学レベルまでの複数のバンドディレクター、講演家、作曲家、音響エンジニアリング、オーケストラ奏者、室内楽奏者、オペラ、合唱などなど音楽の世界のあらゆる領域の人物たちにインタビューした。

だから、音楽の世界に関わる誰にとっても有意義な本になったと思う。』

Andrew
『そのなかでも、君にとってのベストインタビューはどれだい?』

Jeff
『どのインタビューも全部良くて、本当に甲乙つけがたいんだよな….。どのひとも、近道なんてしていなくって、毎日一生懸命頑張っている。このひとたちの辿った道を知ると、自分が毎日頑張って練習していると思ってるだろうけれど比べると全然足りないということがわかる。もっと頑張らなくちゃならない。』

Andrew
『失敗の経験も必要だよね。』

Jeff
『その通り。失敗しても、変わらず努力を続けろ。あらゆる機会にYESと言え。学ぶことを決してやめるな。Noと言われることを恐れるな。できる仕事は全部やってみろ。本当に、たくさんの努力が必要なんだ。』

Andrew
『本を読んでいると、同じような話が繰り返しでてくる。でも、どこをとっても冗長ではないし飽きがこない。どこを読んでも、ハッとさせられる。実はそれって、どんなビジネス書でもそうなんだけれどね。エッセンスは1000文字くらいでまとめられて、あとはその実例や言い表し方がたくさんあるということだ。

誰が言っていたかは忘れたけれど、「失敗しないひとは、眠っているだけのひとだ」という名言があって、僕のお気に入りさ。君がさっき言ったように、どんな機会にもYESと言えということだ。成功だけするとわかっていることなんて、ただの消化事項でありチャレンジじゃない。

このPodcastプロデュースを依頼したインターン生も、ぼくらは良い仕事をしてくれるだろうと見越して依頼はするけれど、彼らインターン生はPodcastのプロデュースなんてやるのは初めてなんだ。それでも引き受けてくれたわけさ。不慣れで未経験のことで、うまくやれるかわからないことでもね。あらゆるチャレンジを引き受けることの重要性だね。』

Jeff
『この本の共著者のジョンがある日、クインシー・ジョーンズの言葉をメッセージで送ってくれた。この言葉が、この本をやること必要性に納得する決め手となった。その言葉とは、1950年代初頭の時期のもので、こういう言葉だった。

「わたしたちはその頃のベストのジャズバンドだったが、文字通り飢えるほど稼げていなかった。そのときにわたしは気づいた。音楽とはまた別に、音楽ビジネスというものがあるんだということを。生き残るには、そのちがいを学ぶ必要がある。」

‥‥20世紀の最も偉大な音楽家がこう言うわけだから、インパクトの大きな言葉だと思う。クインシー・ジョーンズですら音楽ビジネスを学ぶ必要があるというなら、わたしたちは皆、学ばないといけないだろう、と。

音楽を仕事にすること、起業家マインドを学ぶことは音楽の修練を損ねるものではないと思う。練習室でどれだけ良い演奏をしていても、何にもならないんだ。』

Andrew
『素晴らしい。では最後のまとめの質問を5つさせて欲しい。第1問:君が受けた最良のアドバイスはなんだい?』

Jeff
『NOという言葉を恐れるな、だね。たぶん、高校時代のバンドディレクターに言われた言葉だと思う。何も失うものはないんだ、恐れるな、と。』

Andrew
『第2問:いままで経験した最大の失敗はなんだい?』

Jeff
『放送できるやつでないといけないな(笑)

うーん…そうだな、たぶん個人的な面で、お金との付き合い方におけるものだと思う。お金を貯めること、借金することなど「お金」について若いうちに学ばなかったことだと思う。

いま、若い学生と話していて本当に恐ろしいのは、彼らが巨額の学費ローンの借金を抱えて卒業してゆくことだ。CNNマネーに記事が載っていたんだけれど、音楽学校でエレキベース学んで卒業した学生の話で、彼はバークリー音楽院から学位を取得して卒業すると同時に約2000万円の学費返済を背負うことになったというんだ。信じられないことだよ。恐ろしい。

振り返ると、もっと若いときにお金を貯めろ、お金について学べ、経済や会計あるいはマーケティングの授業に出席してみろとアドバイスしてくれる人が欲しかった。お金について、しっかり考えておく必要がある。いつか絶対向き合うことになるから。

ぼくが学生だった80年代はいまとちがって、音楽学校の現場では誰もお金やマーケティングについて学ぶということを重要視せず、そういう情報はまったくなかった。いまでは、クラシック音楽分野に限ってもいくつもそういう本があるのだけれど。

ボストンブラスも、あるときマネージャーに300万円横領されてしまったことがある。ボストンブラスは解散の危機に瀕した。コミュニティーコンサートの仕事をマネージャーが引き受けてお金も受領したのに、その演奏のオーガナイズをせず、メンバーや携わるグループに従業員の給料も着服していたんだ。あのときは幸い、なんとか決着を付けることができたけれど非常に危なかった』

Andrew
『その頃のぼくは21歳で、何もわかっておらず稼いだお金は全部使ってしまっていた。だからあの時期は一時的に親元に戻らざるを得なくなったりして大変な目に遭ったよ。』

Jeff
『あの時期は、非常に頭をひねってたくさん工夫して、顧客や関係先としっかり話をしてグループの名前を傷つけずに前に進むことができた。』

Andrew
『あの乗り切り方はまさに、起業家精神に溢れたものだったと思う。非常に成長させられたね、大人として。解散するのか、法廷闘争に持ち込むのか、関係先や新たな興行担当者たちと話を重ねてなんとかするのか。暑い夜のコンサートのあと、駐車場で外でみんなで話し合ったね。権威ある大事なコミュニティーコンサートが関係して、大スキャンダルとなった。それでも、乗り越えられた。

さて、第3問:起業家的音楽家たちにオススメの本は?』

Jeff
『一択だ。David Cutler の The Savy Musician だね。わたしの本の中に、David Cutlerがまるまる一章書いてくれたものも入っているよ。クラシック音楽における起業というテーマでは、彼が第一人者で、最先端だよ。』

Andrew
『第4問:一緒に働く相手に求める性質はどのようなものだい?』

Jeff
『良い音楽家であることは当然として、協力しやすい相手、長時間一緒に過ごしていても快適な相手。車の長旅で同乗するようなこともあるからね。とくに室内楽グループではそういう面が大事だよ。

室内楽でもオーケストラでも、同僚とうまくいかなくなってお互いに決して隣に座らないとか、話をしなくなるなんていうことはよくあることだ。でもぼくにとっては、仲良く気持ち良くやれることが大事だ。そのへんは結局第一印象になるかもしれないな。

ホゼ・シバージャーがボストンブラスのオーディションにきた時なんか、8小節一緒に演奏してすぐ、「コイツだ!」と思ったね。それでしばらく一緒に時間を過ごして相手を知れば知るほど、ボストンブラスにぴったりな男だと確信したよ。

ボストンブラスは、「雇われ従業員」をオーディションで迎え入れているのではなく、グループのプロジェクトを担うパートナーを求めているわけだ。メンバーはみんな、在籍期間が1日でも30年でも、在籍中は平等なパートナーシップを形成する。』

Andrew
『第5問:人生を金管5重奏の演奏に捧げるのだと、決意した特定の瞬間はあったかい?』

Jeff
『エムパイヤブラスを聴いた後だったね。1981年にタングルウッドで開催されたエムパイヤブラスシンポジウムに参加してたくさん彼らを聴いたんだ。当時は彼らがどうやってあの音を生み出し、どうやったあの活動を実現していたか全くわからなかったけれど、それでも自分もこれをやっていこうと決心した。

いまではエムパイヤブラスにも在籍したサム・ピラフィアンがボストンブラスのメンバーになっていて、彼は偉大なる教師だし、音楽やブラスアンサンブル、音楽活動の歩く百科事典だ。ボストンブラスに君が入ったのも、当時のチューバ奏者が急病になって緊急で誰かを呼ぶ必要があったときに君の師であるサムに電話して、推薦してもらったのが君だったしね。初見が上手で、信頼して推薦できる、と言って。』

Andrew
『ありがとう!素晴らしい時間になった。』

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