ダメ「かもしれない」をふくらませて思い悩んでいないか?

– – –
高校生ホルン吹きからメールで相談がありました。メールで相談に乗ることは、多くの場合、相手がいまどうなっているかに関する情報が本人の印象と考え方に限られるため、なかなか相手が求めているような助けを提供できずに終わります。しかし今回は、この高校生がしっかり「自分の考え」「起きていること」を整理して伝えてくれたので、一緒に考える手伝いができました。すごく立派な高校生です。






【質問者】

私は中学校からホルンを始め、今年で5年目になるのですが、ここ10か月ほど、ずっと奏法に悩んでいます。

ホルンをはじめた時から、曲中では高音を要求され、「当てなければならない」という潜在意識や、「高音が出るのがうまい」という思い込み、「高音なんだから辛いのは当たり前」等といった勘違いから、ずっと無理に高音を出していました。


今となっては少し憶測も入ってしまいますが、おそらく唇に過剰にプレスし、さらに体の色々な所を力ませ、無理矢理に超高位置タイプのアンブシュアを作って息のはやさでゴリ押し……という感じだったと思います。

そんな奏法では、中学ならやっていけましたが、高校に入って求められる技術が高まると、もちろん通用しませんでした。

なので、私は高1のコンクールが終わった頃から、自身の奏法に関して悩みだしました。


まず最初に、アンブシュアについて考えました。

高音を無理矢理吹いて作ったアンブシュアなんて合ってるはずがない!と思いながら、こちらのブログで見た中高位置のアンブシュアをイメージし、アンブシュアに矯正を加えていきました。垂直にずらしたり、横にずらしてみたり……。

アンブシュアセッティングの手順もやってみましたが、マウスピースを唇に強く押し付けると、唇の内側がめくれて、いわゆる粘膜奏法(?)というものになってしまいます。


結果として、今にいたっても改善の兆候はありません。いわゆる、アンブシュア恐怖症になっているのかもしれません。うまくいかないと、今でもまずアンブシュアのことを考えてしまいます。



次に考えたのは、力み過ぎだということ。私の力むポイントを観察してみると、上は舌や唇、腕、肩や胸が自由に動かせず、下は腹と、太もものあたり(吹いていると、なぜか上にあげようとする)に全く自由度がないです。

ここでは、ブレスに対する誤解を記事で解消し、息のパワーの作り方を使うことで、肩や胸、腹の自由度は増しました。また、太ももや腕の力みも、腹の力がうまく使えてないことを補うためにやっているものであると予想できます。

しかし、その他の場所を含め、とにかく力がまだまだ無駄に力が入りすぎ、どれから考えればよいのかもわからず放置してしまっています。



そして何より、「うまくいかないとその事柄に囚われて思考が固まり、うまくいくとその事だけに囚われて、結局調子を悪くしてしまう」ということを、気がつけば無意識でやってしまっています。

こんな状況なのに、オーディションでごまかしごまかしやったところ、コンクールメンバーにはえらばれてしまい、さらに吹くことに義務感まで感じてしまっています。

長くなってしまいましたが、今の私の考え方の問題点や、こうしてみたら、などのアドバイスをして頂きたいです。




【バジル】

事実として高音は出せるみたいですし、メンバーにも選ばれているわけですから、

不安や力みや不自由感はあってもホルンは吹けているといえますでしょうか?

演奏を見ていないので分かりませんが、文面からは考えすぎ気にしすぎな感じがします。

奏法がダメ『かもしれない』という仮定に対し、まだ仮定でしかないものにあれこれ現実的に対処しようとしているかのような…対処したところでそもそも仮定だから効果があるはずもなく…

いずれにせよ、問題を解消しようというスタンスでなく、自分なりに納得できる考え方や練習法を採用し、考え方や練習法を変える自由も思い出しつつ、小さな前進を重ねることにフォーカスしてみるとどうなるでしょう。



【質問者】

たしかに、考えすぎな面があるなあと、今自分でも思いました。
まずは自分の力で不自由さと向き合って、どうしてもわからないときには改めて質問させて頂きます。
夜遅くにありがとうございました。



【バジル】

興味深いのは、不調(と感じてる体験)のきっかけが『求められる技術が高くなったとき』で、外部から水準を決められたときだということですね。

あらゆる努力が、周りの決めた水準に到達するためになって焦っていて、

自分が自分の気持ちや感性で目指す水準の話が出てこなかったですね。

自分の目指す水準なら周りの期待より高くても低くても、どう努力するか自分で決めてるから全然ちがう感じかたになるかも。



【質問者】

……なるほど。

自分の中で、わかったつもりになってだいぶ勘違いをしていたところがありました。

たしかに私は、求められる技術にいちはやく対応しなければ、と考えて、焦って極端に改善をかけようとし過ぎていた傾向があります。


「これはまだできないけど、でも近づくことはできた。これは明確な進歩だ!」

なんて、ある程度気持ちに余裕を持ちながら練習した方が、やっていても楽しくできそうです。



【バジル】

また2〜3日したら、様子知らせてください。



– – -2日後- – –



【質問者】

あれから、自分のペースで、ということを意識して練習したところ、なんとなくですが自分のことをいつもより見れている気がして、普段にはない気付きを得ることができました。

まず私は、唇がだいぶ開いた状態でマウスピースをセッティングしていたようです。

それを改善するために、以前のブログの記事で唇の厚い奏者が下唇を巻き込んでいる、というものを見つけ、実践してみたところ、唇を閉じてから吹く、という状態に近づくことができました。


しかし、それまでは良かったのですが、一度吹き直すと、もう唇が開いてしまった上、口が開きにくくなるくらい顎に違和感を感じました。

それから何度か吹きましたが、変わらず顎が痛くなる一方でした。


なので、ロングトーンなどの基礎をしても、曲を吹いても、何も効果的な感じがしないのです。

一度得た成果がすぐになくなってしまう、というのには、どのような原因が考えられるでしょうか。自分で考えても自己否定的な考え(自分はホルンに向いていない、だとか、今までその場しのぎの付け焼き刃でなんでものりきってきたツケだ、だとか)しか出てこないので、ご意見を頂きたいです。



【バジル】

「成果」というのは、音や吹き心地が良くなった、という意味なのかそれとも「唇を開かずに吹けた」という意味なのか、

どちらのことですか?



【質問者】

音や吹き心地が良くなった、ということです。



【バジル】

『何度か吹いた』とのことですが、

その『何度』のときいちいち、次のセッティングの手順をやってみるとどうなるでしょう。下唇を巻き込もうとするより唇の閉じとアンブシュアのキープに役立ちます。

こちら
『アンブシュアセッティングの手順』




【質問者】

ありがとうございます。

この手順の際には、唇を巻き込むことは意識しなくてもよいのでしょうか?



【バジル】

はい、巻き込むのは構わないけれど、巻き込もうとはしない方がいいかもしれません。

唇の前に顎が開いているから唇が開いているのだとしたら(よくあること)、顎が開いていくまま唇巻き込んだら顎の関節大変です。



【質問者】

ありがとうございます。

明日の練習でやってみます。



– – -数日後- – –



【質問者】

おはようございます。

ここ数日、セッティングの手順をやっていたところ、最初はいい感じで吹けたのですが、二度目からは吹きにくくなり、顎も痛くなります。

恐らく、私は一度成功すると「ああ、こうすればいいのか」と思い、失敗することを恐れていキープしようとし、無駄に力んでしまうという癖があるようです。

「失敗してもいい」と考えても、そう考えなきゃ、と思ってしまい、結局は力んでしまいます。

何も考えずに吹くと、ほんとに思考をブロックしてしまい、無意識な動作さえブロックしてしまいます。

このような、考えすぎる癖はどうしたら直せるのでしょうか。



【バジル】

二度目、というのはどういう意味ですか?

セッティングの手順をその日の一回目とか、休憩後の一回目にやると良いけれど二回目からダメになる、
ということですか?



【質問者】

セッティングの手順を一度やって、その次にもう一度やると、うまく行かないです。

それと、今現在も吹いているのですが、吹いていなくても顎にとても違和感があります。これは、吹くのを中断した方がいいでしょうか。



【バジル】

セッティングの手順をやるのは「何かを吹くため」で、その吹いている何かのクオリティや演奏体験で効果や意義を判断するほうが良さそうです。

だから、セッティングの手順を繰り返し練習するというよりは、音階練習や曲練習など、「取り組んでいるもの」が対象としてあって、それを吹くにあたってスタート時にセッティングの手順をやるようにする。

そうすると、練習の成果はどうか?
という見方をしたいですね。


「セッティングの手順がうまくいったかどうか」
「セッティングの手順を繰り返し練習しよう」

という方に意識がいっているのかな?


顎の違和感は心配ですね。休んだり、場合によっては早めに口腔科で診てもらっておくと安心です。

「唇を巻き込む」というのをこないだやったときから始まったのですか?

それとも以前からそういう傾向があったのでしょうか。


あと、「一度やって」と「その次にもう一度」の間は1日なのか、それ以上なのか、
あるいは「はじめて」やったあと以降はいちどもうまくいっていないのか、

どういう意味ですか?



【質問者】

たしかに、目先のことがうまくいくように考える癖が私にはあるように感じます。

セッティングの手順がゴールではなく、その先を見据えてやってみます。


顎の痛みは、唇を巻き込む、と考えてから始まりました。

恐らく今までも無意識のうちに巻き込んでいたものを変に意識してやったため、動作に無理が出ているのではないか?と考えています。

今は巻き込む意識はなくしていますが、それでも顎は痛くなります。


1日目の最初の一回目はうまくいったのですが、それから楽器を離してもう一度吹くと、うまくいかなくなりました。

次の日からの一回目はうまくいくときもあれば、うまくいかないときもあり、だいぶ不安定です。

今日は、一回目はうまくいきましたが、それから何度か吹いて今中断しています。



【バジル】

>>1日目の最初の一回目はうまくいったのですが、それから楽器を離してもう一度吹くと、うまくいかなくなりました。


「もう一度吹く」ときに、一回目と同じように手順を「考えて実行」したかどうか?

それともセッティングの感覚を再現しようとして、「手順を考えて実行」からは離れたのか?

もしそうだとしたら、「考えて実行」しているのが一回目だけで、二回目以降は感覚や結果の再現をしようとしている可能性がありそうです。

もしそうじゃなくて、ちゃんと毎回「考えて実行」をしているんだけれど一回目しか効果がないなら、それは不安定だったりうまくいかなかったりな理由はセッティングとは別のところにあって、それをセッティングで対応しようとしても効果がないということでしょう。


音階練習や曲練習をするときに

・セッティングの手順を、ちょっとだけ意識してやりつつ吹き始める
・そういうことは何も考えずに吹き始める

どちらの方が、吹き心地や結果がいいか?を比較していくことにしましょう。

それで手順を意識した方が良い感じなら、また手順を意識してやりながら吹き始めるということをその都度選択する。

迷ったらまた比較する。

意識しない方が良いなら、もう忘れておく。

そういうふうにしてみましょう。


それと、唇を巻き込んでから痛くなったんだとしたら、当分奏法のことなんか全く考えずにいた方が良さそうです。

数日、やっぱりこのやり取りの初めに戻って、「自分のペースで、納得できるやり方や楽しめるやり方だけ使って練習する」ところに立ち戻ってみませんか。

唇を巻き込んで顎が痛くなって….というのも、「自分の唇は厚い、ブログに厚いひとで巻き込んでいるひとがいる、閉じるといいと書いてある。やってみよう」というところから始まっていて、奏法のことにランダムに首を突っ込んでしまったところからですよね。

・唇が厚いのか
・巻き込むべきなのか
・ほんとうに開けすぎだったのか
・開けすぎだったとしても、それは開けすぎているのか、別の原因で「開いてしまう」「うまく閉じられない」という結果になっているのか

などなど、定かでないことを「そうだ」と結論付けて試したのが「閉じる」「巻き込む」というようなことでした。
それでセッティングも一回目しか機能していないのかもしれません。

でもここで、「開けすぎの原因」を探してもダメなんです。
ほんとうに開けすぎなのかがそもそも定かじゃないので。

こうやってグルグルグルグルしているということは、やはりそもそも奏法にそんなに問題がないのにイジろうとしているからという可能性も十分にあります。


やっぱり、「自分のペースで、納得できるやり方や楽しめるやり方だけ使って練習する」ところに立ち戻ってみましょう。それで数日過ごしてみませんか?



【質問者】

二度目からは、おっしゃる通りでたしかに「感覚の再現」に意識が行っていました。

奏法に関しても、焦りすぎて、ランダムに変えることに抵抗がなくなっていたのかもしれません。

これらは私に根強くこびりついているため、すぐに変えることは難しいと思いますが、もう一度楽器をはじめて触った頃くらいまで初心に戻って、楽しさを認識できるようにしたいです。



【バジル】

>>焦りすぎて、ランダムに変えることに抵抗がなくなっていたのかもしれません。

おお、これは良くないね。これをすると混乱するし余計に焦ります。(それで奏法がおかしくなる、という心配は不要です)。


ーまとめー

①「自分のペースで、納得できるやり方や楽しめるやり方だけ使って練習する」

② それで出てくる、たとえばもっと高い音を鳴らしたい、などの次の課題については「どういうテクニックが必要で、どういう練習をしてみることから始めようかな?」と考えてみる。決して、「奏法のどこがおかしいからできないんだろうか?」と考えない。

③ 2で考えたことを実験する。さっき書いたように、考えたことを意識して実行しながらやったときと、何も意識しない(いままで通り)と、どっちが自分は好きかで選ぶ。

④ 3で選んだことを、また意識して実行する。迷ったらまた、意識するのと何も考えないのとで結果を比較し、自分で選ぶ。


4〜5日、これでやってみましょう。



– – -数日後- – –



【質問者】

ここ数日の練習には、明らかな変化がありました。

最初は自分の音に集中して自分のしたいことをする、というのがなかなかできず、滞ってしまいましたが、ある時ふと意識を完全に音だけにいかせるのではなく、こうしたい、という意欲の土台の上に、自分のしたいことをのっけてやるイメージでやると、明らかに吹きやすくなり、また唇も崩れにくくなりました。


今でもふと気を抜けば意識が唇に行ってしまったりしますが、日に日に集中できる時間が延びているように感じます。

集中しているときは、なんだか自分を外側から見て操っているような感じがして慣れませんが、その感覚が少し楽しいような気がします。


そんな中ですが、合奏中にも自分の音に集中しようとするのですが、周りの音が気になったり、過度な反復練習をさせられたり、なかなか集中できません。合奏中にはどのように自分の音に集中すればよいのでしょうか。



【バジル】

ずいぶん前進しましたね!


ひとりで練習するときに関しては

『意識を完全に音だけにいかせるのではなく、こうしたい、という意欲の土台の上に、自分のしたいことをのっけてやるイメージでやると、明らかに吹きやすく』

と言っているのに対して、合奏では

『合奏中にも自分の音に集中しようとする」

とおっしゃていますね。


自分の音に意識を集中させるのでなく、「こうやりたい」というイメージをしつつ音も聴いているいるとうまくいきはじめているわけですyね?

であれば、合奏のときに同じことをやってみようとしてみてはいかがでしょう?



【質問者】

合奏中は、自分の音が聞こえにくくて、たしかにむきになっていたかも知れないです。

次の合奏は、落ち着いてできるように改善をかけたいです。



【バジル】

なるほど、周りをシャットアウトして自分の音ばかり聞こうとしてたんですね。

それって不可能ですし、ストレスや緊張は増えてしまいます。


"「合奏において」何をしたいかという意欲の土台の上に乗せる”

ようにしてみてはいかがでしょう。


合奏において、ですから、イメージする内容は自分の音だけじゃなくて、合奏体としての音や表現ですね。

ちなみに、ひとりで練習しているとき自分のイメージ通りの音が出ないからといって腹を立てても意味がないのと同様、合奏でもイメージと異なる現実の音でもそれに腹を立てるのは意味がありません。


– – – 10日後 – – –


【質問者】

合宿をしていたため、最近は長時間の合奏が多かったのですが、自分一人のことを考えるより、合奏の中でどのような役割を果たしたいか?と自問自答して吹いた方が明らかに調子が良かったです。

その方が自身の吹きかたのイメージもつきやすく、むしろこちらの方が効果的な練習をできたと言えます。

自問自答している中で、ほんとうに合っているのかな、という疑問がわいてくることも多々ありましたが、その疑問は否定するよりむしろ受け入れて、「次はこれも試そう」という前向きな気持ちに変換することができました。



【バジル】

素晴らしい。

よくぞここまで来ました。

合奏の中にいるなら、その中で自分はどうしたいか?を考えることこそが、うまくいくし楽しい。

疑問や疑念は否定したり消そうとするより、『問い』にする。それがストレスを減らし前に進む流れにつながる。

真実だと思います。



【質問者】

ありがとうございます!

本当に、様々なことを学ばせて頂いて、なんとお礼を言えばよいやら……。

このやり取りで、音楽の楽しさを再確認できました。

再度、本当にありがとうございました!



– – – 了 – – –



Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *