【感謝するという行為は、時間を投資するということ】起業家的音楽家Vol.3〜スーザン・デ・ウェジャー最終回〜

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ボストンブラスなどで活躍したチューバ奏者、アンドリュー・ヒッツ氏が主催するプロジェクトが『The Entrepreneural Musician』。日本語にすると、『起業家的音楽家』です。

今回は、音大時代を挫折と屈辱で終えたものの欧州各国でITコンサルとして成功し、その後おその事業を売却して母国オーストラリアに戻って音大大学院に入り直し音楽の世界で生きることにした Susan de Weger さんへのインタビューです。インタビューの前編はこちら

〜最終回【ビジネスの土台は「自分が何者であるか」の理解である】〜

Andrew
『あなたが育て上げ、売却するほどに成功したITコンサルティング事業だけれども、そこまでいけたのは、きっと何か他に対する優位性・差別化があったと思うのだけれど、どうなのかな?』

Susan
『わたしたち夫婦がイギリスに渡る前、夫はオーストラリアですでに会社を持っていて、東南アジアに事務所がいくつかあったりした。その時点ですでに利益がそれなりにある事業だった。

イギリスに行ったのはもともとわたしの仕事の関係で、スタジアムツアーのマネジメントをやっていたの。物事の段取りをつけるのが上手だからその仕事をやっていたのだけれど、やがてツアーの仕事はけっこう燃え尽きてしまった。スタッフを6人雇って、家から会社を経営していたのだけれどね。

でもその仕事をやっていて、市場の需要と、業界の供給の間にギャップがあるのが見えていたの。いわゆる「ブルーオーシャン」ね。

どういうことかというと、ツアーマネジメント業界には何社か大企業がいて、あとは個人レベルの零細業者がたくさんという状況で、大会社とパートナーシップを組んで請求の処理を担ったり、大きな予算は持たない小さな事業者に仕事を紹介したりするような中規模の事業者がいなかったの。そこで、そのギャップに着目して、ひとつのことを非常に優れた質で行うことに注力したの。

また、わたしたちの会社のビジネスモデルの独自性は、非常に優れたIT技術者を良い待遇で使うことだったの。IT業界では、優れたIT技術者でも顧客が払うお金のうちほんの少ししか報酬としてもらえないことが多い。

それに対してわたしたちの会社は、夫が業界で世界的に有名なのと、顧客に対して常に倫理的に最善を尽くという評判があり、IT技術者に対してできるだけ良い報酬を払うようにしているから、優れたIT技術者と仕事ができてしかも関係を長続きさせることができたの。会計システムも公開して明朗にしたからこれも優れた技術者を引き寄せたし、個人事業者として独立してやっていけるレベルの技術者でもわたしたちの会社のあり方を気に入ってもらえて働きにきてくれた。報酬は良く、また顧客からの支払いのうち技術者に行かないお金がどこに使われているかも常に公開してわかるようにしてあったから公平感があったのね。知りもしない株主の財布にお金が消えていくのではなくて。』

Andrew
『いまの話を聞くと、成功も当然だと思える。なぜなら、異なる二つのグループのひとたちの問題を双方向的に同時に解決していたのだから。大企業と零細企業の「中間」を見つけて中規模事業者としてビジネスを作ったこと。透明性と良心的な待遇により高レベルな技術者を雇い関係を長期的に継続したこと。業界の傾向としては待遇が悪いがゆえに独立して個人事業者になりがちだったのに。普通、「中間業者」というと本質的な仕事をせずにお金のやりとりだけして上前をはねるような悪いイメージで語られがちだけれど、あなたのやった中間事業は、あらゆる成功する事業と同じように、実在のクライアントと、そのクライアントの抱える問題の解決策を結びつけたことにあるね。

わたしたち音楽ビジネスのひとたちも、学ぶべきことがたくさんある。クライアントの問題を解決することでお金を受け取る一方、その仕事をやってくれるひとたちの問題もまた解決してあげる。時間だけは、万人に平等で、増やすことができない。だから時間以外の方法で、ビジネスを拡大することができる。あなたの場合は、優れた才能を引き寄せることで評価を高めビジネスを育てた。』

Susan
『優れた技術者たちが、わたしたちのところにこそ来たがってくれるようにする必要があったわ。待遇、環境など。一方、彼らの仕事から会社が受け取るお金は全部彼らに行くのではなく、一部は当然会社に行くわけだから、お互いにとってwin-winになる必要がある。クライアントも技術者も、他の事業者を選択できるわけだから、クライアントのニーズにも技術者のニーズにも応えることこそが、クライアントからも技術者からも選ばれる会社であるには必要だったの。』

Andrew
『たとえば弦楽カルテットを始めるのでも、あるいはパンクバンドを始めるのでも同じことだね。聴衆にしても仕事の発注者にしても、選択肢は常に他にもあるのだから。ぼくの妻も、とっても優しくて美しいから、ぼくがちゃんとして良い旦那でないと彼女には他の選択肢はいくらでもあるんだ(笑)。大学教授であれ、室内楽グループの仲間であれ、コンサルティング会社の社員であれ、才能のあるひとにはほかの働き口は必ずあるんだ。だから、どう選んでもらうか、なんだ。』

Susan
『適切な待遇が大切ね。これは金銭面に限らない。働いてくれているひとたちが、そのひとたち自身の働きが評価・感謝されていると感じられるにはどう接したらいいのか。わたしたちの会社では、社員旅行を行っていたわ。そもそもの待遇が良かったから、数百ポンドのボーナスはあまり意味がなくて、だkあら代わりに素敵な旅行を企画したの。ボーナスをプール金にして、社員とそのパートナーを週末旅行に招待したの。楽しい素敵な経験を社員に提供したほうが、数百ポンドのお金より大きな意味を持つ。スコットランド、パリのディズニーランド、バルセロナ。彼らの働きへの報酬の一部は、そういう「体験」を提供することだったの。お金だけではできないことよ。感謝を伝える、一番効果的な方法はなにか、ということね。』

Andrew
『たとえば、始まったばかりのアンサンブルグループだとしたら、お金や旅行を仲間に提供することはまだ金銭的にできないと思うけれど、いったいどうしたら感謝を伝えられるかな?』

Susan
『感謝は、伝えても伝えても、伝えすぎというのはないと思うわ。ちゃんと書面などで感謝を伝えるのに加えて、相手のために時間を取って、相手に注意を向けるということね。時間こそが、わたしたちにとって一番価値のあるものだから。だからたとえば感謝したい相手がいるとして、あなたが学生でお金がないとしたら、クッキーを焼いて持っていくのはどう?手書きのメモを一言添えて。そうやって、あなたの時間を、感謝を伝えるために投資すること。手紙を書く、ちょっとお茶に誘ってコーヒーをおごる。面と向かって言う。一番意味のある伝え方だし、長期的な関係を作れるわ。長期的な関係からこそキャリアの成功や重要な機会は生まれる。誰と知り合いで、あなたの仕事を誰が知ってくれているかから仕事の機会は全て生まれてくるのよ。人脈作りは、もらうことでなく与えることなのよ。』

Andrew
『その通り。ぼくの妻も、バンドディレクターなんだけれど、会合やパーティーでひとと話す機会があれば、自分の話を一つすれば相手の話を二つ聞く・引き出すようにしている。すると、みんなすっかり彼女のことが好きになるんだ。』

Susan
『そうやって、ひとの話を引き出して聞くと、あとでまたフォローアップができるでしょう?聞いた話について後日感想を伝えたり、展開を尋ねたり、次につながる会話・やりとりの流れが生まれるのよ。相手の話を聞くことに使った時間が、活かされてくるわね。』

Andrew
『宝石のような素晴らしい話ばかりだった。スーザン、きょうは本当にありがとう!』

Susan
『こちらこそ、ずっとファンだったPodcastに招かれて光栄だったわ!』

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スーザン・デ・ウェジャーさんのサイト “The Notable Values”

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