【ビジネスの土台は「自分が何者であるか」の理解である】起業家的音楽家Vol.3〜スーザン・デ・ウェジャー第3回〜

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ボストンブラスなどで活躍したチューバ奏者、アンドリュー・ヒッツ氏が主催するプロジェクトが『The Entrepreneural Musician』。日本語にすると、『起業家的音楽家』です。





今回は、音大時代を挫折と屈辱で終えたものの欧州各国でITコンサルとして成功し、その後おその事業を売却して母国オーストラリアに戻って音大大学院に入り直し音楽の世界で生きることにした Susan de Weger さんへのインタビューです。インタビューの前編はこちら


〜第三回【ビジネスの土台は「自分が何者であるか」の理解である】〜

Andrew
『大学に対して、キャリア教育の必要性だけでなく、そのプログラムの実現の見通しを財政面まで含めて提示するというのは、あなたのITコンサル業時代に学び培われたビジネスの力か可能になった行動だと思うんだけれど、どうかな?』


Susan
『そうね。あと、素晴らしいアイデア=素晴らしいビジネス、ではない!ということを知っているということも重要ね。デイビッド・カットラーのSavvy Musicianのワークショップでもその点が扱われていた。(訳注:Savvy Musicianについては前回をご覧ください)。このワークショップでは、ビジネスの発案してさらにそこから実現まで進めていくものなのだけれど、わたしが割り振られたチームでは、話し合いのなかで何度か大きな方向転換が必要だったわ。いくつも素晴らしいアイデアはあったのだけれど、より具体化していくと、財政モデルだったり市場での優位性だったり顧客層だったり、ビジネスにはならないことに気づくということがあったの。この経験は、いまわたしがやっている Ignite Lab(訳注:前回を参照)の運営においても、個人でやっている音楽ビジネスコンサルティングの仕事においても賢明さをもたらしてくれている。すごいアイデアでも、マネタイズできるか?欲するひとがいるか?先にやっているひとはいるか?自分の方がより良くできるか?といった点すべてに応えていけないのなら、どれだけ情熱を持っているアイデアでも、自分にしかできないことだと思っていても、ビジネスにはならないの。』


Andrew
『なるほど。音楽ビジネスのコンサルティングをしているとき、いろんなクライアントに共通して頻繁に出てくる、クライアントが見落としていることや観点がずれていることなどはあるだろうか?』


Susan
『ひとつ共通しているのは、わたしたちが自分自身を演奏者としてしか見ていないことね。これは教育システムに起因している部分もわるわ。評価システムもそうなっている。教育や評価において、わたしたちは優れた模倣を評価して、イノベーションと独立・独自性は評価しない。その結果、音楽学校の若い卒業生たちは自分が人間全体として何者であるか分からなくなっている状態で出てくる。固有の芸術家としてはもっとどうしたらいいか分からなくなっていて、自分は他者に享楽を提供するためだけに教育されてきたんだと思ってしまっている。

だからわたしは高校生を対象に講演をたくさんするのだけれど、大学で音楽を専攻することを考えている子たちに、「音楽家の本当の生活はこういうものなのよ、いろんなことをするの。演奏もするけれども、それ以外もたくさんの仕事や業務に関わったりする。音大で受ける教育にはとても価値があって、応用できるもの。商業やビジネスの勉強と訓練も組み込む必要はあるけれど」と。

また、高校生の時点で音楽の演奏が上手な子たちで大学ではエンジニアリングや科学を専攻するつもりの子たちには、どうやったら音楽生活を続けられて、音楽から学ぶこと得ているものが就職・転職市場でどう有利になるかを話すの。他者との協同、よく聞くこと、ディテールへの注意力といった持っているものを適切にアピールすればよいのよ。

どんな子に対しても共通して大事に話すのは、この世界は独自で固有の見方や声を必要としているということ。あなたたちは、あなた自身である必要があるのよ、と。なんでもできるんだ、というマインドセットが必要。演奏が上手になるためだけの教育じゃないのよ。

そうやってオーストラリア国内のたくさんの学校を訪れて講演しているわ。

また、最近はシドニー交響楽団と興味深く新しい取り組みを始めたの。それは、プロの楽団員たちの音楽演奏以外への道への転換を手助けするもの。演奏家としてのキャリアから、新しいキャリアに移りたいと考えている団員や怪我をしてしまった団員たちのために。ここでも本質は同じで、音楽家はたったひとづだけ「演奏」ができるようになるだけの教育を受けてきたんじゃない。音楽の教育は、演奏以外にも実にいろんなことができるようにしてくれているの。音楽の教育を受けたわたしたちは、非常にユニークなスキルの組み合わせを持っていて、自分は音楽を提供することしかできない・やらないというマインドセットから離れさえして、なんでもできるんだ・可能なんだというマインドセットさえ持てば、本当に多様な方向で成功できる。』


Andrew
『もし、あなたが若い音楽家の卵と話をしていて、演奏だけじゃなくて他にも色々なことができるようになる必要があるということを伝えるとしよう。そのときその子が、「じゃあ何から始めたらいい?」と尋ねたら、どう答える?』


Susan
「自分が何者であるか」ということのすごくしっかりした感覚と、「自分は何を望むか」をはっきり認識していることから、すべては始まると思うわ。企業・会社を設立して成功に導く道筋は誰にでも教えてあげられるの。ビジネスプランや、財政設計、マーケティング、ソーシャルメディアでのキャンペーンなどそういったことはいずれも示してあげられる。でも、それをやるひとが、「自分は誰なのか」・「自分はなにを望むか」・「世界がそれに関心を持つ理由」ということに関しはっきりした感覚を持っていないと、ビジネスの構造と手順を構築していく意味がなくなってしまうの。明確なゴールに向けて努力していくことができないから。

わたしはこういう、個々人の深い内面的価値観に取り組むことをとても重要視しているわ。』


Andrew
『本当にすばらしい。よく言うんだけれど、近頃はどんどん利権をおさえる門番のようなものが無くなっていっている。誰でも本を書いて出版できるし、誰でもアルバムを録って発表できる。映画も作れる。これは非常にエキサイティングなことで、つい最近までそういったことはごく少数の権力者によって全部支配されていたから。その権力者たちはほとんど年配の異性愛者の白人男性だった。そういうごく限られた特定の層が、その他のあらゆる人種や層のことについても決定権を持っていた。だから、コンテンツを生み出すひととしては歴史上でも最高の時期になっていると思うんだ。

一方で、ソーシャルメディアでよく観察できるけれど、不誠実なひとや偽物
もたくさんいる。薄っぺらい作り物や偽物を、ぼくたちは日々見せつけられている。だから、ぼくたちの嘘発見能力はどんどん上がっているんだよね。

ではどうすれば、誠実でいられるか?誠実であるためには、そもそも自分が何者であり、何をしたいのか分かっていなければ話が始まらない。

もう一歩踏み込もう。どうすれば、ひとは「自分が何者であり、なにをしていきたいか」を理解することができるだろうか?』


Susan
『わたしの場合は、ジョン・ディマティーニの “The Values Factor” という本を読むのが第一歩だったわ。ニューヨークタイムズでも大きく取り上げられたから知っているひとも多いでしょう。

そして、”WholeHearted Musician” というプロジェクトを行っている ダナ・フォンテノーという女性がいるの。彼女もわたしのように困難を抱えて音楽から離れた後、音楽家の成功・繁栄を手助けることをミッションとして音楽に戻ってきた音楽家。そんな彼女が 「It’s Not (JUST) About the Gig」(訳注:直訳すると「『お仕事』だけが全てじゃない」)という本を書いたのだけれど、これはキャリアの成功と自己実現を可能にするようなマインドセットを作るための本なの。すごく安いし、Kindleでも買えるわ。

自分自身を省みて問い直す作業をさせる本で、自分自身について深く考えさせてくれるわ。自分の価値観は何なのか、自分が何に価値を見出すのか。音楽の面より、それ以外の人生と生活全般から考えることになるわ。

ビジネスだと、「企業理念を説明しろ」と言われるんだけれど、その次に聞かれるのは「予算を示せ」なの。理念がある一方で、その企業や仕事相手がどのようにお金を使っているかがその企業・人の実際の価値観を示すからね。

個人も一緒で、口で言っている「価値観」じゃなくて、その人が何にどのように時間をつかっているかが本当の価値観を表しているわ。

この本はそういうことに突っ込んでいくもので、自分が自分の人生をどのように生きているか、自分の生き方は自分の幸せにつながっているかを考えていくことになるわ。「先週、何をしていたときに幸せを感じたか?」「この24時間、どのように時間を使っただろう?」といったことから振り返って考えることから始めてね。

「自分が何者であって、何を望むのか」を明確に認識していくことを始めるにあたってのガイドのひとつとして、ダナの本はお勧めするわ。そうやって、”Who”と”What”が分かっていれば、”How”=どうやってやるか、はもはやかなり単純なのよ。ビジネスをどう作っていくかを学ぶ手段は、たとえばこういうポッドキャストなどのように、いくらでも学ぶ術があるから。

そもそもなぜ、これをやっているのかが自分で分かっていないと、状況が悪化したり厳しくなったりしたときに、エネルギーを出し続けることが難しくなってしまう。誰でもね。


Andrew
『誠実であること。自分が世界に対して何を提供するのかを見出すこと。それについてすごく明確に説明してくれた本当に良かった。』


Susan
『わたしの場合の「自分が何者で、何をしていくか」を把握した具体例のひとつを挙げるわね。

わたしは最初に音大に入ったとき、それまで基本的にちゃんとしたホルンのレッスンを受けたことがなかった状態で入学したの。小さな街の出身で、ホルンの先生もおらず、楽器の演奏はスクールバンドでの演奏を通じて学んだの。デニス・ブレインが演奏するモーツァルトのホルン協奏曲集のカセットテープを聴きながらね。本格的な教えを受けたことがなかった。

だから、わたしのホルンの演奏技術というのは大したものではないの。そのことに、大学院に入ってから向き合う必要があったわ。

大学院ではリサイタルを開かないといけないのだけれど、じゃあそこで普通にモーツァルトの演奏をするのか?と考えた。でも、わたしはモーツァルトを、演奏されるべきされ方で演奏する技術を持っていない。モーツァルトはわたしが持っていない技術を必要とする。

では、モーツァルトの演奏としては認められないような水準でそれでもモーツァルトを演奏するか、それとも別の作品を演奏することにするか。

わたしは後者を選んだの。作品はたくさんあるし、わたしの技術や特徴、強みに合っている曲をやろうと。

わたしの強みは、歌心と音色。

スタンダードなレパートリーの多くはわたしに合わないし、オーストラリアの大学院では75分のリサイタルをやる必要があって、協奏曲を2〜3曲やって埋めるなんてことはできない。どちらにせよ、スタンダードなもの以外もいろんな曲を組み込む必要がある。

それで調べていくと、21世紀の北米の作曲家が素晴らしい作品をたくさん書いているのが分かったの。それで、わたしはこれを差別化のポイントにしてリサイタルのテーマにしようと決心したわ。

わたしはモーツァルトは演奏できないし、不十分なモーツァルトなんか誰がお金を払って聴きに来たいだろう?だから、誰もやっていないことをやろう。ひとりの人間として、「ほかのひとがあまりやらないことをやる」というわたしの性質に合うし、わたしのアンブシュアや特性にマッチしたレパートリーがある。

ある種、21世紀の北米のホルン音楽、とくに低音ホルンについてのスペシャリストとしてリサイタルを提示しようと考えたの。ホルンの前はユーフォニアムを演奏していたおかげで、低音域は得意なの。

わたしの「ニッチ」は、ほかのひとにできることが自分にはできないという困難につきあたることから現れたもの。二流のモーツァルト奏者であることに甘んじ続けるのか、自分が上手なことを選びとってそれを活かしていくのか。その選択だったのよ。』


Andrew
『世界は、平均的なレベルのモーツァルトの演奏に不足はしていないからね!』


Susan
『その通り。頑張っても平均的なものになるこを選ぶのか?ということ。わたしは、そんな道は歩むまいと決めたわ。』


Andrew
『この話であなたが示す、シンプルだけれども容易ではない重要な資質が、自己認識だね。自分が、何かに関して頑張っても平均的なものにしかならないということを認識せず、有意義なものを世界に提供していないままだでいることもできたわけだから。そういう自己認識はとても重要だ。』



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最終回『感謝するという行為は、時間を投資するということ』へ続く
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