【売り込みを嫌がるのは自意識過剰の証拠】起業家的音楽家Vol.3〜スーザン・デ・ウェジャー第2回〜

– – –
ボストンブラスなどで活躍したチューバ奏者、アンドリュー・ヒッツ氏が主催するプロジェクトが『The Entrepreneural Musician』。日本語にすると、『起業家的音楽家』です。





今回は、音大時代を挫折と屈辱で終えたものの欧州各国でITコンサルとして成功し、その後おその事業を売却して母国オーストラリアに戻って音大大学院に入り直し音楽の世界で生きることにした Susan de Weger さんへのインタビューです。インタビューの前編はこちら



〜第二回【売り込みを嫌がるのは自意識過剰の証拠】〜

Andrew
『さて、あなたのやっているIgnite Labについてすこし話してくれるかい?』


Susan
『大学院に入って二日目の後、家に帰って夫に「音楽教育を改革する必要がある」と言ったときに、クラシック音楽のためのビジネス教育や起業家教育をうまくできている音楽学校がないか調べたの。そのときに、北米の音楽大学や音楽院がこういったことにもう10年以上取り組んでいて、オーストラリアより遥か先に進んでいるということに気がついた。

学校ごとのプログラムや優れたスタッフなどを調べていると、ボストンのニューイングランド音楽院の音楽家のための起業家教育のことを知ったの。南カリフォルニア大のデイビッド・カットラーの素晴らしい”The Savvy Musician”(注)プロジェクトなど、他のプログラムもいくつか見つけたわ。

– –
(✳︎注✳︎ The Savvy Musician=直訳すると「賢い音楽家」。南カリフォルニア大で教えるDavid Cutler が展開する、音楽家のためのビジネス・自営・起業の教育プロジェクト。Facebookページのいいね!数は30万を超える。大変わかりやすく、鋭い著書を二つ書いているので、もし出版関係者でこれを見ておられる方がおられればぜひ翻訳出版を検討してほしい。Cutler氏にはすでに可能性を打診して前向きでおられるので、ぜひまずはバジルにメール下さい→basil@bodychance.jp



ただ、ボストンとメルボルンは姉妹都市であることに気がついたの。インターネットでその線からいろいろ調べたら、メルボルンからボストンに行って技能発達のために学び、メルボルンに帰ってきて素晴らしいことをするためのすごくしっかりした奨学金制度があることを知った。非常に幸いなことに、その奨学金を発給してもらうことになったの。

そうして実際にボストンに行って、あちらの音楽家ビジネス教育のプログラムを学びに行けた。このテーマでできることの可能性の大きさにすごく衝撃を受けたし、改めてわたしの情熱や能力の中心とすごくつながることを認識したわ。

それで2週間ボストンで学んでからメルボルンに戻ったら、学校のメルボルン音楽院の校長室のドアをノックして挨拶したの。

「マクファーソン教授、こんにちは。こんな中年がホルンを抱えて学校の廊下をうろついているのを見て、授業参観と勘違いして迷い込んだ保護者か何かと不審に思われたこともあったでしょう(笑)。わたしはこうこうこういう者でかくかくしかじかの経緯で大学院で学んでいます。いまこの学校は問題を抱えています。卒業生が卒業後に必要としている学びと準備を提供することができていません。特にこの国では、卒業生同窓会による慈善事業を発展させることができずにいます。教育が、現実世界で求められることと大きくミスマッチしてしまっているからです。北米では、ビジネス・起業教育を音楽教育に組み込む潮流が強まっています。この学校、そしてオーストラリアでも同じことを実現したいなら、わたしにそれができます」と。

そうしてビジネスモデルと予算案、運営費、スタートアップの日程工程、1年目のプログラムなどなどを提示して、「あなたがやれ、と言ってさえくれれば実行できます」と判断を仰いだら、「ぜひやってくれ」ということになったの。』


Andrew
『ここで一時停止!すごい。3時間分くらい詳しく話してもらいたいくらいの内容がいまの話に詰まっていたよ!

質問させてくれ。

ボストンへの研修奨学金を発給してもらえたのは、なぜだと考えているかな?なにかアプローチや売り込みの仕方があったのだろうか?それとも人脈を活かしたのだろうか?そこをまず教えてほしい。』


Susan
『どんな助成金や補助金の申請でも共通しているのは、まず、「あなたが応えるニーズはなにか」ということ。そして「あなたのやっていることは、いかにして却下しようのないほど独自か」ということ。

このケースの場合、わたしは「オーストラリアでは音楽家に対して音楽教育の与える成果に問題がある。伝統的なキャリアモデルが大方崩れてしまっているから。この国の音楽教育モデルは19世紀のモデルで固着してしまっている。その問題への解決策こそ、音楽教育に欠けているビジネス教育・ビジネスセンスの部分だとわたしは確信している。ビジネスについてはわたしには経験と実績があるから、高い質で教えることができると思う。メルボルン音楽院をこそ、この国にまだないタイプの音楽教育におけるビジネス教育を始める学校にするために援助してくれないだろうか」というアピールの仕方ができたわけ。

どのようなニーズに応え、いかにして自分だけができるやり方で応えるか、ね。』


Andrew
『最高の答えだ!

音楽家や芸術家には、自分を売り込むことを恐れるひともいる。それに対して、あなたのいま話してくれたことは、まさに「売り込みのお手本」だ。

相手の言葉で話し、相手の抱える問題について話しをする。

先日本を読んでいたら、こんなことが書いてあった。「相手の問題を解決するのが良いビジネスになるのではなくて、まず相手が《問題だと感じていること》を解決してあげるものでないと良いビジネスにならない。相手が問題だと感じていないことには、相手は興味を持たない」と。

その点、あなたは卒業生に明るい未来を示せていないという学校が悩んでいる問題について話し、その問題について説明をし、その問題への解決策を示した。そういう見事な売り込み方だと、断るはずもないね!』


Susan
『音楽家が、自分を売り込むことを嫌がることについては、馬鹿げたことだと思うわ。自分がやらなくて、誰がやってくれるというの?演奏の準備、音楽、コミュニケーションに注ぐ時間と努力も、聴衆がいないとなんの意味もない。だから、聴衆・オーディエンスを獲得するための努力を「汚い」と思ってしまうような若い音楽家はとても残念なことよ。自分を売り込むということは、素晴らしい音楽を聴衆と共有する、という音楽家の人生の目標を達成するためのものなの。』


Andrew
『わたしたちは、詩を書くこと、演技をすること、楽器を演奏することが上手になるためにものすごい時間をかけている。なのに、売り込みを嫌がってそれを世に共有できなくしてしまう。それって実際は大抵、拒絶されることを恐れている人たちなんじゃないだろうか。「汚い売り込みはしない」と言っているのは、売り込みをすると断られることが当然あるという現実から逃れる言い訳に過ぎないと思うんだ。』


Susan
『そう、断られることを恐れているのだとしたら、「なぜ自分は断られることを恐れているのか?」ということに向き合う必要があると思う。わたしは、その恐れは、「なぜ自分がこの活動をしているのか」ということがどこか不明確になっているから来ていると思うわ。音楽活動って、とても自己満足的というか贅沢な仕事だと思う。自意識過剰になりやすいと思うの。

でも、音楽を他者のために演奏しているなら、他者のために仕事をしているなら、失敗なんて存在しない。断られることなんて何も気にならないと思う。朝起きて、演奏会の案内を送るとか、企画の売り込みの電話をかけるとか、そういった行動をするかどうか、全部自分次第なのだから。

スポーツ心理学博士でジュリアード音大教授のノア・カゲヤマのBullet Proof Musicianに書いてあったことなのだけれど、芸術とは自分のために自分のエゴでやることなんじゃなくて、全く以って他者に奉仕することなんだと。そのために自分は演奏活動をやっているんだ、明確に理解していたら、その活動の「音楽」の部分と「ビジネス」の部分はどちらも自分次第なのだと分かるはずなの。 』


Andrew
『先日、ライアン・ハラデーという著者の”Ego is the Enemy”(=「敵はエゴだ」)という本を読んだ。その本もまさにそのことを説いていたよ。エゴにはいくつも異なる表出の形があって、いずれも自分自身のベストを妨害してしまう。何かを始めるときに妨害をもたらすこともあれば、始めた後に批判される恐怖や拒絶される恐れなどの形で妨害されることもある、と。』


Susan
『カナディアンブラスのジェフ・ネルセンに、まさにそのことについて痛烈なレッスンをしてもらったことがあるわ。彼の”Fearless Performance”合宿に参加したときに、ひとまえで演奏をした際うまくいかなかったんだけれど、ジェフが私のところにやってきて「すごく良い演奏だったよ!」と言ってくれたの。でもわたしはそれを即座に否定してあの演奏が「あそこをミスした、あの音が低かった」といかにひどかったか言い募ったの。するとジェフは鋭く「あなたは自分のことばかり気にして演奏しているんだね」と告げたの。

わたしは他の参加者より年齢も行っているから、けっこうキツく言われても受け止められるのを彼もわかっていたからこう言ったのよ、「あなたはぼくのことなんかどうでもいいんだね。自分の惨めさに浸っていればいいさ」って!

わたしはすぐに、「トラウマになるほど深い傷を負わされたわたしに向かってよくもそんなことをぬけぬけと!」という反応をしそうになったのだけれど、すぐに一呼吸置いて気づいたの。全くもってその通りだ!って。彼はズバリと真実を指摘してみせたのよ。

その瞬間、わたしの心はパッと開いて、目が覚めたわ。音楽人生が180度転換した瞬間に思えたわ。

だから、こういった内面の問題を深く掘り下げて、しっかり向き合うことをほんとみんなに強く勧めるわ。』


Andrew
『そう、演奏の後に自分の演奏に納得がいかなかったけど、誰もが褒めたり感謝してくれたりしているなら、受け取らなきゃ。誰かに昔言われたんだ、「より良い過去への希望は全て捨てきらなければならない」って。名言だね。

あのEの音が低すぎた低すぎたって聴衆の前で嘆くとか、
去年の事業でもっと収益を上げなきゃいけなかったのにと嘆くとか、

それって現実と向き合わずに、自分が勝手に思い込んだ未来像や成果と、現実のそれとを比べてその不一致に対して感情的になっているだけなんだ。

そんなことをしても、演奏の改善にもビジネスの成長にも全くつながらない。』


Susan
『でもねアンドリュー、わたしたちの音楽教育がまさにそういう態度を育ててしまっているのよ。ほんの小さな不完全さを見つけてこだわって変えることにばかり集中させて、うまくいっているその他の大部分の事柄をすっかり忘れさせてしまう。細かなディテールに目を向ける訓練をしているのね。実際、そういう小さな改善を重ねていくことで至る高い洗練レベルを求めてやっていくわけでもあるし。

わたしの場合は、うまくいかなかったこと・ダメだったこと「だけ」に意識を向けて、その間、しっかり表現できたフレーズや、心を込めて語れたストーリーなどについて認識することがすっかり抜け落ちていたのだな、と振り返ってみると分かるわ。

こうして、うまくいかなかったことだけにフォーカスし続ける音楽教育が、その後のキャリアの色を作ってしまっているように思うの。うまくできたこと、コントロールできることをにも目を向けてそれをもっと伸ばして前進することを学び忘れているのね。キャリアに必要なことなのに。』



– – –
『【ビジネスの土台は「自分が何者であるか」の理解である】』続く
– – –



「起業家的音楽家」日本語版シリーズ一覧


✳︎英語オリジナルのポッドキャストはこちら

✳︎アンドリュー・ヒッツ氏の事業にぜひご支援を。月1ドル〜から寄付・支援ができます。こちら



Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *