MRIでみえてきた、ホルン奏法①〜声帯・声門・喉頭の関わり〜

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・楽器演奏のとき、喉はどうなっているのか?
・スラーやタンギングで、舌はどうなっているのか?
・音域によって、口の中はどう変わるのか?

….そんな疑問をMRIで調べてみよう!という研究があります。






〜ホルン演奏✖️身体運動学〜

インターネット空間において、ホルンに関する有益な情報の最大の集積場所は、
おそらくアリゾナ州立大学教授のジョン・エリクソン氏が運営する、「Horn Matters」 です。

やはりそのジョン・エリクソン氏が運営するポッドキャスト「Horn Notes Podcast」があります。

その中のひとつに、米ゴードン大学のピーター・イリティス教授(身体運動学教授)との対談がありました。

イリティス教授は自身がホルン奏者ですが、2002年にディストニアと診断され、以来、ディストニアを予防しまた回復する道筋を探るべく科学的な研究を精力的に重ねています。

今回は、そのイリティス教授が、何人ものすぐれたホルン奏者とディストニアに陥っているホルン奏者の両方の演奏の様子をMRI(核磁気共鳴画像法)を用いて観察してわかってきていることを、エリクソン氏に話しているポッドキャストです。


エリクソン、イリティスお二人の寛大な許諾の下、ポッドキャストの対談を日本語で書き起こし、紹介致します。

元のポッドキャストはこちら:
「HorMRI n Studies with Dr. Peter Iltis」


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【MRIでみえてきた、ホルン奏法】
〜その1:声帯・声門・喉頭の関わり〜



エリクソン(Ericson)
「イリティス教授の初期の研究は、音楽家の動作特異性ディストニアなど運動障害に焦点を当てていますね。ホルン奏者でディストニアになるひとたちの抱えている問題の中には、自分の師匠や本から得たアンブシュアの見た目のイメージに頼りすぎていて、生理学的に正しいアプローチを取っていない面もあるんじゃないかと思ってきました。この点について、MRIを使った研究からはどんなことがみえてきていますか?」


イリティス(Iltis)
「それについては、研究は本当にまだ始まった段階に過ぎません。研究のやり方としてはエリートなホルン奏者たちとディストニアを抱えるホルン奏者たちを比較するという形です。金管楽器奏者のディストニアはおそらくアンブシュアの筋肉だけでなく、舌や喉の筋肉も関わっているだろうと考えられています。

ディストニアの奏者だけを観察しても、一体何が「正常」なのか、最適な奏法は何なのか、あるいはそもそもそういうものは存在するのかがわかりません。

そこで、もともとの意図としては比較を可能にするためにエリート奏者がどうやって演奏しているかを調べようということになりました。エリートの定義としては、美しく演奏し、長いキャリアがあり、そして自分なりに演奏をうまくいかせる特殊技術もいくつか身につけているだろう、という想定です。それを観察して、彼らのパフォーマンスを象徴するようなパターンはないか調べようということです。」


エリクソン
「こういうテーマは、ほんとうにいろんな話につながってきます。こういった研究は、ほんとうに進展する可能性がありますね。

わたしの博士号は実は金管教育で取っているのですが、ホルン奏法に関する文献を読むと、その多くがイメージで語られているだけのものが多くて、役立つ場合もあれば、そうじゃない場合もありそうなのです。注意深く扱う必要があります。

きょうのこの対談は、あえて議論を巻き起こそうとしているわけではないのですが、テーマとしてホルン界のバイブルであるフィリップ・ファーカスの本で述べられていることを検証したいと考えています。ファーカスの本を貶めることを意図しているわけではありません。とても興味深いことがたくさん載っている本です。一方で、個別詳細な部分で誤りもあります。それらが、きょう検討するに価する事柄だと思っています。

まだ科学的に調査研究されていないことも含まれているかもしれませんが、ファーカスが述べているテーマのひとつが、マウスピースからアンブシュアに対する圧力のことです。かなりの数のひとが、ファーカスの述べていることを読んで、プレスをしないようにと心配しすぎているように感じるのです。この点については、調査はされていますか?」


イリティス
「わたしたちがMRIを使って進めている研究を通じて言えることとしては、どの奏者も例外なく唇自体にマウスピースの凹みの跡がまちがいなく認められるということです。全ての奏者が、それなりの圧力をかけているということは疑問の余地がありません。程度の差こそあれ、唇に凹みの跡が無い奏者が一人も見受けられ無いのです。これはMRIを使わなくても、肉眼で確認できるようなことです。

しかし、圧力の程度を詳しく計測はしていません。それをするには、おそらくMRI自体とは別の技術が必要になるでしょう。」


エリクソン
「別のテーマに移りますが、やはりファーカスの本に、『4つの固定ポイント』という話が出てきます。1点目がマウスピースとアンブシュアの接点。2点目が唇のアパチュア。ほかに二つ、『コントロール可能な抵抗を操作するポイント』でひとつが『K』を発音する舌の後ろの方。そしてもうひとつが喉頭室あるいは喉頭。この考え方は、ファーカス自身MRI技術を使って得た考え方なのですが、これらはどれぐらい正しいと言えますか?」


イリティス
「この事については結構たくさん取り組んできました。まだ未公表のデータからこの話をさせてください。つい先ごろ、ウィスコンシン大学でホルンを学んでいるサラ・ガレスピーさんからまさにこの点について電話で質問を受けたのです。声門が演奏にどれくらい関わっているのか、という質問でした。

彼女は、喉にカメラを突っ込んで『普通の演奏』の様子を観察すればいいのではと考えていたのですが(笑)、わたしはこれでは自然な演奏の様子を捉える事は無理だと考えました。そこで彼女には、MRIを使って観察することを試みるよ、と答えました。

最初はわたし自身が被験者となってMRI室に入り、声を出したり止めたりということから始めました。声門が働いたり休んだりするということがそれならば自分で把握できますから。

やってみたのは、ドイツのマックス・プランク研究所で『横断的断面図』という見方で声門を見ようということでした。声楽の本にある喉頭が開いたり閉じたりするのが分かる挿絵のような感じです。

すると、わたしを被験者としたときに、ある種偶然ですがかなりはっきりした映像が得られることが分かり、このやり方は使えるぞ!となりました。

それからサラ自身にもドイツにきてもらって、彼女の問いである『演奏に声門や喉頭は関わっているか?』ということを観察していきました。彼女自身や他の数人の奏者を被験者としました。

こういったMRIスキャンをしていくとき、スキャンしている幅は実はすごく狭くて、厚さでいうと3~4mmd程度です。ですからもし喉頭に上下運動があれば、スキャンの視野から対象が出入りすることになる、ということなのです。喉頭は明らかに音ごとに上下運動がありますから、声門を観察したかったわたしたちとしては、これではどうにもならないという状況になりました。というわけで、別の方法を探る必要が生じました。」


エリクソン
「これはなかなか重みのあるテーマです。指導者という目線からで言うと、生徒によってはこういったことを話し合ったり教えてあげたりする必要がある一方で、教えると考えすぎてしまう人や場合もあるからあまり言いたくないというときもあります。

時々教えていて、こんなことをやってみることがあります。ホルンは普通、ベルの中に右手を入れていますよね。そこで、楽器を逆に持って左手をベルの中に入れてもらうのです。すると、右手では感じられなかったような振動、音波を左手だとはっきり感じられます。いつも起きていたことなのに、右手だと慣れてしまって感知しなくなっているわけです。

そのように、わたしたちの体の構造の中で起きていることがいろいろあっても、それを知る感覚がないということがあると思うのです。」


イリティス
「その通りです。だからこそ、研究を通じて見えてきたことを引き続きお話させてください。

ある日、たくさんのMRI画像や解剖図を仲間たちと見ながら考えているうちに話がまとまっていったのが、『冠状断面』でみる方法です。頭から縦向きに、自分がスライスされて分かれている様子を考えてください(笑)そうすれば、正面や後ろから、体の中が見ていけますよね。声帯は解剖学的には前後の向きに付いています。喉頭の上側の後ろ側に付着しています。披裂軟骨という声帯が付着した場所で、声帯や喉頭の構造の後ろ側にあるものを透視する方法を見出すことができました。

この披裂軟骨を閉じたり開けたりする見事な筋肉があって、披裂軟骨を
内外へと動かします。そしてもちろんそれによって声帯も内外へと動くわけです。この筋肉が冠状面からくっきり明瞭に画像化できているのを見つけました。それで、実際に話をしたり、ホルンを吹いていたりする最中の様子の計測ができるようになったのです。

その結果、いますぐにでも言えることがあります。….でも
多くの人が残念に思うことです(笑)というのも、分かってきたことはファーカスの述べていることにそれなりに合致することもあって、高い音・低い音・大きい音・小さい音・スタッカート・音を変えることなどなどを観察していきました。すると、得られた映像からは、これらの異なる演奏動作のほとんどいずれにも、声帯が関わっていることが分かりました。

ただし、論文として発表するには十分な母数の被験者ではあるのですが、科学的厳密さを問うにはまだ技術的にも難しい面はありますが、それでも動きが起きていると結論することはできます。」


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『MRIでみえてきた、ホルン奏法②〜スラー・タンギング〜』へ続く
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(この研究プロジェクトの支援・寄付をお願い致します http://www.gordon.edu/mrihorn



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