本番に「危険」はないという厳然たる事実

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ホルンを吹いている方から、ブログのコメント欄でのお悩み相談を頂きました。

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失敗したくない、という気持ちのエスカレートが問題を引き起こす
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【相談者】

こんばんは。いつも勉強になるブログありがとうございます。

この度は、どうしても、バジル先生に相談したいことがありましてコメントさせていただきました。

私はホルンを吹いています。そしてもうすぐ大きな本番があり、その中でもいくつかソロを吹きます。前から何度かソロを吹く機会はあったのですが、納得した演奏をできた本番はなく、毎回緊張にのまれてしまい普段の練習での演奏ができていません。

以前までは、本番で極度の緊張がおこり、いつも通りに吹けず、失敗してしまい、もう吹きたくないと思うのですが次こそはという気持ちを持ってソロを吹こうとしています。

ただ、大きな演奏会ということもあり、いつも以上に成功させたい!という気持ちが大きいです。

それに反するように、なぜか普段の合奏から極度に緊張してしまい、練習でしているような演奏がまったくできません。緊張することを受け入れ、周りにどう思われても、私のできる演奏をと思うのですが、呼吸がしづらくなり、手が震え、動悸が激しくなり唇も満足に震えず、息もいつもの半分ぐらいしか持ちません。

人の目を気にせずに、と思うようにしても体がそのようになり、もうどうしていいかわからない状況です。

緊張があるのは、良いことだというのも理解はしているつもりですが今の私にとってこの緊張がある限り、吹くことが嫌になってしまうほどです。

ここまでくるのなら私がソロを吹かない方が良いのかとも思います。

ですが、大好きな曲でのソロ、吹き切りたいです。

長文失礼いたしました。

なにか、少しでもこの状況から打破できるようなことはありませんでしょうか。

緊張に負けて、楽器を演奏すること、ホルンを吹く自分を嫌いになりたくありません。

よろしくお願いします。

【バジル】

こんばんは。

おしゃっている「体の反応」は、それ自体がもしかしたらカウンセラーやセラピーなどで治療が必要なレベルに達している可能性もあるのかもしれません。

でも、震え・動悸はほぼ毎本番当たり前のわたしからすると、そういった体の反応や変化の多くは実のところ「それ込み」でどう演奏をするかということで十分乗り越えられる、あるいは演奏に実のところ悪く作用しない可能性も感じます。

言葉で言うのが難しいのですが、わたしの場合は、そういった体の反応の中で演奏するには、そうなっていない普段より息の吸い方も吐き方も、姿勢の維持も、アンブシュアの運動も、『もっと思いっきり、力を使って、意志を強く持ち続けてやり続ける』ことが必要です。

逆に、それをやりさえすれば、実のところ自分の良さや特徴は普段よりはっきり表れて、演奏し終わって気持ちは納得といいますか、「やってよかった」と思えています

問題は、それをやり忘れたり、やるのを恐れたり、体の反応が出ないことを願ってちゃんと立ち向かわなかったりしてしまいがちだということです。

体の反応もあまりに強いとそれは病的かもしれないので、治療が必要かもしれないですが、その前にそもそも少しでもそういう体の反応が出ることを避けようとしていないか、いつものままで吹こうとしていないか、という点が気になります。

また、「成功させたい」という気持ちは当然多くのひとが持つものですし、どちらかといえば良いことだと思います。

問題は、その気持ちが大きいことではなく、「失敗できない、失敗したくない」という気持ちが強いことが問題です。それが恐れや緊張をエスカレートさせます。

エスカレートしない恐れや緊張というのは、ジェットコースター乗っているときの「こわ〜い!!」という気持ちやドキドキと似ていて、本番という空気感、人前に出ることに対しての本質的な緊張感と怖さにあると思うのです。

でも、とても怖いし体も反応するけれど、「なんにも危険なことは起きない。自分は大丈夫」というのが厳然たる事実なんですよね。

その事実より、頭の中の「失敗できない」が強まってきちゃうと、これは妄想ですから歯止めがきかずエスカレートしてしまう、というふうに比喩的に見ることもできると思います。

「自分が失敗するということ」について、もっともっと深く掘り下げて向き合う必要もあるかもしれません。

失敗することに対しての恐怖や、失敗したくないということへの執着をしっかり軽減していく取り組みです。

それが、体の反応が強いときでも、頭の中はどこか落ち着いて、先ほど書いたような『もっと全部をしっかり実行する』という本番でのあり方を実行する助けになりますし、もしかしたら体の反応自体も少し落ち着くかもしれません。

当然もうお読みになっているだろうとは思いますが、バイロン・ケイティという方の手法で、下記の記事の「③思考の毒抜き」に例示しているやり方がそういった取り組み方のひとつの例です。

記事:https://basilkritzer.jp/archives/5377.html

【相談者】

バジル先生

お早い返信ありがとうございます。

たしかに、考えてみれば緊張が酷い中でも音は出せているし、全く吹けなくなっているわけでは無いということに気づきました。手が震えることや、発汗量が増えること、動悸がすることなどの身体面が大きくあり、そこに「間違えられない、うまく吹かなければいけない」といった恐怖や執着があるというのもとても納得させられました。

これらを含めた状態での演奏というのも試みています。緊張しているのをエネルギーに!とポジティブに考えたりもさせていただきました。ですがどうしても思っている演奏ができず、指揮者からも厳しい指摘を受けることになりました。

自分が失敗するということについて、深く掘り下げてと言っていただき自分と向き合っておらずただ「吹けない」という考えだけで、逃げている部分もありました。考えているうちに、中学や高校生のときはソロを吹くことに恐怖なんで感じていなかったということを思い出し、なんでだろう?今と違うのはなんだろう?ということも考えていました。現在は間違えられないという考えや、自分ができていなければ人に言えないという思いがありそれらにかなり強く縛られているのだな…とも気づきました。

ただそこからどうしたら良いのか、そのようなことは本当では無いという毒抜きの思考をしてみるのですが、うまく行きません…。怖いことは無いと強く自分に言い聞かせていくことが大切なのでしょうか…

【バジル】

思考の毒抜きは、簡単にちょいちょいと一回やれば済むようなものではなく、例や説明をよく読んで、じっくり自分の思考と向き合い作業を続けてはじめて意味や効果があるものです。

また、本当ではない、という言い聞かせるのが毒抜きではなく、

「本当だと信じていたことが、そうではなかったと気が付いて、影響力が弱まったり無くなったりすること」

が毒抜きの到達点です。

それまでは、まず自分が何を信じているのかの特定、それが100%本当と言えるか、本当と思っているときに自分がどうなっているかの観察、それがなかったとしたらどんな感じがするかの想像、逆は何か/真実は何かを考えてみること、といったひとつひとつのステップを順番に丁寧に踏む必要があります。

思考の毒抜きを専門に教えている、バイロン・ケイティの本を買って読むのもいかがでしょうか。

運が良ければ10数分で良い効果があることもありますが、あがり症歴が長いなら、いくつもの思考を毒抜きしていく必要があるかもしれません。

その作業を、次の演奏会までに間に合わせようとしても、焦っているだけで意味ある取り組みにはなりづらいのではないでしょうか。

恐怖のレベルがあまりにも強く、そして長く続くならカウンセリングなど感情に関係する専門的で治癒的な助けも必要でしょう。

このコメント欄でできることは、考えるきっかけや材料を得ることぐらいであり、すぐに解決や安心に持って行こうとするのは無理があると思います。

【相談者】

すぐに解決や安心に持って行こうとするには無理があるという言葉と、次の演奏会までに間に合わせようとしていて焦っていても意味のある取り組みにはならないという言葉に正直どきっとしました。

本当にその通りだと思います…。現状から早く逃れたくて気持ちばかりが焦ってしまっていることに今更ながら気づきました。

自分とまず向き合うことや、緊張している時、そうで無い時の自分の体の違い、なにを感じているのか、どうしてそうおもうのか…1つ1つ整理してゆっくりと考えていくことをしながら楽器を吹いていきたいと感じました。

吹けない自分が嫌で、楽器を吹く自分と向き合っていなかったことに気づかされました。早くどうにかしたいという考えをまず置いておこうと思います!

自分の体と、自分の気持ちと、それに対応してくれるホルンの音と…1つ1つを受け止めながらしばらく取り組んで行きたいです!

焦りを含み、どうにかしたい一心の私の言葉にも真摯に向き合ってくださり、助言等本当にありがとうございます。

前向きな気持ちが良い方向になるよう、自分をしっかり観察していきたいです。

【バジル】

うん、それがいちばんだと思います。

自分の経験することを受け止める気持ちが出てきましたね。

そして、ホルンに取り組みたい気持ち、ホルンが好きな気持ちが出てきましたね。

何よりです。

そういう気持ちで向き合えてさえいれば、たとえ本番で緊張してもうまくできないところがあったとしても、

やってよかった、と感じられる時間になるのは確かでしょう。

【相談者】

ありがとうございました。

あまりにも「成功」という言葉に執着していたのだなと心が軽くなりました。

等身大の自分と少しずつ向き合っていきたいと思います。

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