力みの原因は、自分のやっていることにある

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自分の悩みは、自分で解決できるかもしれない!
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「アレクサンダーテクニーク」の発見者、F.M.アレクサンダーは本人が俳優でした。

あるとき自分自身が声を出せなくなってしまったことをきっかけに「自分がやっていること」をそれまで誰もやってこなかったような徹底ぶりで観察を何年も続けました。

そして、自分が正しいと信じてやっていたことこそが、声を出せなくさせていた原因であったことに気がつきました。

この発見をベースに発展していったのがアレクサンダー・テクニークであり、今ではジュリアード音楽院など世界中の最も優れた音楽や演劇の教育機関で教えられています。

【自分が起こしていることだから、自分でどうにかできる】

『起きていることには、自分がやっていることが関係している』という考え方は、自分が悩んでいることの解決につながることがあります。

自分に起きていることは、自分がやったことを原因とした結果であったり、自分がやっていることが大きな影響を持っている。

当たり前の話だと思う方もいらっしゃるでしょうが、意外にわたしたちは、「自分の身に起きていること」と「自分がやっていること」を全く別物に考えていることがあります。

音楽を演奏するなかでの具体例から見てみましょう。

【呼吸】

多くの人が、呼吸について悩んでいたり、改善・向上を望んでいたりします。

「もっと息を吸えるようにしたい」
「緊張すると息が吸えない」
「息が安定しない」

などなど。

そこで、呼吸のトレーニングをしよう、筋トレをしよう、正しい呼吸法を身につけよう、という発想になるわけですが、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。

確かに呼吸において不備や不満を感じているわけですが、

・それは本当に呼吸が原因なのでしょうか?
・呼吸が悪いから呼吸を改めよう、という発想は果たして本当に呼吸を改善してくれるのでしょうか?

呼吸は全身運動です。
ということは全身の状態が呼吸と密接不可分に関連しています。

すると、呼吸において起きていることは、呼吸だけを見て理解できるものではなく、呼吸をしているときに自分が身体全体で何をやっているかを見ないことには、必要な理解が得られないことがあるのです。

また、呼吸は精神的状態とも密接に関係していますから、自分がなにを考えているか、どんな考え方をしているか、どんな価値観でものを考えているかも呼吸の悩みを改善していくうえで大切な側面です。

【腕】

ピアニストや弦楽器奏者にとっては、腕は大きな関心事です。

肘が痛かったり手首が痛かったり、
上腕が強く張ったり。

フォームとしての腕の角度や、
テクニックとしての手、指、腕の動きもまた大きな関心事ですね。

しかし、そうやって「腕」に注意が向いているとき、おそらく肩口から先の部分にしか注意が行っていないことが多いのではないでしょうか。

それは「腕のはたらき」という結果がそこに現れているからです。ですが、腕というもの自体は構造的に胴体とつながっています。だから、胴体や腕と胴体のつながるあたりでやっていることが原因かもしれないのです。

胴体でやっていることと、腕・手・指がどうつながるかを実感できるちょっとしたエクササイズがあります。

1:猫背気味でもかまわないので、楽な体勢で手を膝の上におき、5本の指で膝をトントン叩いてみます。

2:そのときの指の動きを観察しましょう。目で見ると、動きのスピードや量を見ることができますし、感覚的にも動かし心地を感じておきます。

3:頭をグッと後ろに引いて、背中と頭が一直線になるようにし、胸を開いて背中を反ります。これは胴体における作業であり、胴体の状態はさきほどとはまったく異なりますね。

4:この状態で、指で膝をトントンします。

5:指の動きはどう変わりますか?スピード、動きの量、動かし心地、それぞれ先ほどどのようなちがいがあるでしょうか?また、腕や手首などの感触はどうなっていますか?

腕に起きていることの多くは、胴体で自分がやっていることの影響下にあります。どれだけ腕の細かいことが気になっていても、本当の意味で変化や解決をもたらすには、

自分が全体として何をやっているかから理解することが早道になります。

【高音の力み】

実際のBodyChanceでのレッスンでよくある展開で考えてみましょう。

例えば「高音のときにカラダに力が入ってしまう」という悩みを相談に来た受講者がいたとします。

その受講者は

・高音を演奏する
・そのとき力が入る

という結果としての出来事には気が付いています。

そこでわたしが

「じゃあ、力が入るとき、あなたは何をしていますか?」

と問いかけます。

すると受講者はたいてい

「….. えーと…..」

と口ごもります。

そう、「自分が何かをやっている」という発想が無いのです。

高音を演奏しようとすると力んでしまう理由や原因というのは、ほんとうにひとそれぞれです。実際にあった例ではこういうことがありました。

バジル「高音に行くときに、グッと体を下げてお腹を押し出しているように見えるけれど、それはご存知ですか?」

受講者「….まったく意識していませんでした」

バジル「じゃあいったん、それ無しで演奏してみましょう。それをしないでも済むようにわたしが手を添えて手伝いますね」

受講者(高音を演奏する)

バジル「どうでしたか?」

受講者「体がフワフワしちゃって、重心が上に上がる感じがして、お腹がきちんと支えられていないような感じがしました」

バジル「音の質はどうでしたか?」

受講者「さっきより響きました」

バジル「労力はどうでしたか?」

受講者「力んでなくて、とても楽でした」

バジル「なるほど、ということはおそらく、体をグッと安定させよう、重心を下げようとしていて、お腹を使うということはお腹を押し出すことだと思っているのではないでしょうか?」

受講者「そうです。そうやらなければいけないと思っています」

バジル「ということは、そう思ってやっていることが力みの正体ですね」

受講者「じゃあこれからどう吹いたらいいんですか?」

バジル「呼吸の仕組みは….(以下、呼吸の仕組みや重心について、息の支え方について詳しい説明をして新しい体験を本人が理解して持って帰って使っていけるように整理する)

このように、

1:「いま何をやっているか」を知り、
2:「ほんとは何をしたいか」を理解し、
3:「どうやってやりたいことをやるか」を発見し、
4:それを実行に移す

という流れをお手伝いするのが、動きを理解するプロであるBodyChanceの先生の腕の見せ所です。

これを読んでいるあなたもぜひ、まずは「自分は全身を視野に入れたら何をやっているかな」と観察してみるところから試してみましょう。

しばらくやっていると、「ひょっとしたらこういうことかも?」というヒントが出てくるものです。

それでも自信がなかったり、もっと知りたくなったら、BodyChanceでレッスンを受けてみましょう。

Basil Kritzer

P.S.どんな癖や問題でも、それを「撲滅」しようとしたり、押さえ込もうとしたりしても、緊張や不都合はもっとも進行してしまいます。大切なのは、なぜそれが起きているか、ということ。これを理解し、寛容になってはじめて前進できます。そのためのサポートをぜひ、BodyChanceのレッスンで受けてください。 詳しくはこちら

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力みの原因は、自分のやっていることにある」への4件のフィードバック

  1. バジル先生の本をある方から勧めていただき、興味深く読ませていただきました。福岡の蓑田と申します。主にジャズでテナーサックスを吹いています。いずれは、アレクサンダーテクニークの講師の方からレッスンを受けたいと考えています。
     難しいパッセージになるとどうしても身体がガチガチになり、音が細くなってしまうという悩みを持っています。ゆっくりとたっぷりと息を吹き込んで太く優しい音を出したいと考えています。アレクサンダーテクニークでは、基本的なことなのでしょうが、よく理解できていないので、2つお尋ねしたいことがあります。一つは、頭を自由に動くことができるようにするということです。マウスピースを口にくわえるまでは、そのように考えて準備をするのですが、マウスピースを口にくわえた途端、頭が固定されてしまうということはどのように考えたらよいのでしょうか。二つ目は呼吸についてです。吐くときに、横隔膜が上がりますが、腹筋はそれを上に押し上げるように手伝う、つまり内側に絞り込むように使うのでしょうか。それとも、横隔膜がすぐに上がってしまわないように(行きを安定させるために、ヘソの下側にお腹が張るように引っ張るということでしょうか? 

    • 蓑田さま

      コメントありがとうございます。

      ご質問への答えを試みたいと思います。

      >>>頭を自由に動くことができるようにするということです。マウスピースを口にくわえるまでは、そのように考えて準備をするのですが、マウスピースを口にくわえた途端、頭が固定されてしまうということはどのように考えたらよいのでしょうか。

      当然、マウスピースとアンブシュアの関係や、体と楽器の関係は、演奏しやすいように安定させたいですよね。

      ですから、それを行なっており、それがうまく機能しているのならば、それは体全体が硬くなってパフォーマンスを損ねるような影響がある頭の固定ではないので心配ないと思います。

      一方で、もし頭の動きと体全体のことを知った結果、いままでまったく意識していなかった「マウスピースを口にくわえるというタイミングで自分自身がどうなっているか」ということに注意が及び、そのタイミングで体が硬くなってしまうような頭の固定の仕方を行なっているということに気がついた、ということなのであれば、それは改善のポテンシャルに気がついたということと同義なので非常に有意義なことだと思います。

      そもそも、体が硬くなってしまうような頭の固定の仕方がある、ということは実感されていますか?そして、頭を動けるようにしてあげるとそうすることで体がついてくる (or 動きやすくなる、動く) ということは実感されていますか?

      もし実感されていないのであれば、頭を固定している、ということへの気づきは、頭の固定に伴ってパフォーマンスを損ねるような体の硬くなりにつながっているのか、それともそれは演奏技術上必要なマウスピースとアンブシュアの関係の安定化としての作業なのかの判断がつかないわけですから、「頭を固定してしまっている」と心配に思う必要はありません。

      必要なのは、それに伴って体にどんなことが起きているか、パフォーマンスにはどんな影響があるか、ということを自分自身の実感として知ることです。

      >>呼吸についてです。吐くときに、横隔膜が上がりますが、腹筋はそれを上に押し上げるように手伝う、つまり内側に絞り込むように使うのでしょうか。それとも、横隔膜がすぐに上がってしまわないように(息を安定させるために)ヘソの下側にお腹が張るように引っ張るということでしょうか? 

      腹筋は、息を吐くとき、内側への絞り込み/横隔膜の押し上げとして働きます。それ以外には胴体を曲げる・ひねることにしか腹筋は使い用がありません。

      横隔膜が上がってくるのは、腹筋の働きによって内臓が上がってくる力と、肋骨に作用する筋肉(腹筋含む)によって肋骨が収縮される(絞られる)力によるものです(もしかしたら他にもあるかもしれませんが、わたしはいまのところ知りません)。

      それに対抗する力は、横隔膜が自身の力と、胸郭を拡大させる方向に肋骨を動かす肋骨に作用する筋肉たち(たとえば肋間筋や頚椎と肋骨を結ぶ斜角筋など)の力によるものです。

      横隔膜は、ONになると張ります。ゆるんでいるときはドームの天井のようになっているので、ONになるとその丸まりが降りてくるようなかたちです。これは息を吸うための動きです。また胸郭の拡大も、息を吸うための動きです。

      吐きながらこれらをONにすることにより、息の出て行きかたに拮抗によるコントロールを及ぼすことができるという仕組みになっているのだと思います。

      ご質問の文章を拝察するに、重要なポイントは、

      ・腹筋は息を吐く専用
      ・横隔膜の上がりすぎを制御するのは、横隔膜自身のONと胸郭拡大 のONによる

      ということかなと思います。

      ヘソの下側に力はかかりますが、それは腹筋やヘソの力ではなく、はるか上の横隔膜(と胸郭の拡大)のアクティブ・能動的な働きによるものだということです。

      呼吸についてはぜひこちらの記事もお読みください。

      呼吸の誤解を大掃除〜これできょうからもっと吹きやすくなる〜
      http://basilkritzer.jp/archives/1470.html

      Basil

  2. こんにちは、

    呼吸について質問ですm(._.)m

    わたしの場合、息を吸うときお腹がふくらむという感覚はなく、内臓が押し出されているという感覚もないのです。肺のほうに入っているという感覚があるだけです。なんとなく肺らへん・肺の後ろの背中(つまりは肋骨なのかな?)がふくらむ感じです。イメージとしては肺が位置する上半身の上半分が後ろや上にふくらむ感じがします。
    ラクに息を吸えている感じはするのですが、「ブレスが浅い」ということにはならないんでしょうか?
    息が続かず、すぐに息がなくなってしまうことが多いので、この息の吸い方でいいのかなと疑問に思います。
    それとも息が続かないのは吐くときに問題があるのでしょうか?

    吐くとき、みぞおちの部分が少しグッと固くなっている感覚があります。わたしは今までヘソの下らへんをぐっと前に押し出して吹いていたので、これでいいのかなと不安です。

    この記事を読んで、自分が問題としていることだけに視点を向けるのではなく、身体全体、心の面も考えてみて、息を吐く、吸うということについて考えると、上記のような感覚がありました。上記のような感じがでいいのでしょうか?

    • くらもさん

      コメントありがとうございます。

      内臓が押されている感覚や、お腹が膨らむ感覚が無くても、だからといってブレスが浅いとか呼吸法がまちがっているということには全くなりません。なので、そういう心配をする必要はありません。

      大事なのは、いまのやり方で演奏が上達していっているかどうかです。

      それで言うと、息が続かないという悩みをお持ちなのですね。
      それが吸い方が原因なのか、吐き方なのか、はたまた何か別のことなのかは、普段どのように考えて何を意識して演奏していて、その結果どんなことが起きているかをもっと詳しく教えてもらえないと、いまの時点ではわたしには分かりません。

      ヘソの下のあたりが前に押し出されるような吹き方をしていたとのことですが、それ自体は間違いではありません。

      ・わざとヘソの下『を』押し出そう、としていたとしたら、理解や意識を変えることでもっと演奏しやすく上達していける吹き方になっていける余地がある可能性があります。

      ・ヘソの下『が』結果的に押し出される、力が入るということなら全く問題ないと思います。横隔膜の働きで内臓の押し出しが起きているのと、腹筋を働かせていることの掛け算でそういうことが起きているのだと推測します。

      コメント全体に、「自分のやり方・感じ方はまちがっているじゃないか」という不安が感じられますね。
      そういう不安は、やり方が合っているか間違っているか、という捉え方をしているから生じるのだと思います。

      奏法や呼吸法には合っているとか間違っているとかは一切ありません。

      「もっと上達していける考え方・理解・奏法」へと変化するための『余地』が常にあるだけです。
      つまり、いまのやり方は間違いではなく、ただもっと上達する道筋がいつでもある(ラッキー!)、ということなのです。

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