譜面より「自分」が大事

たとえば

「譜面通りに演奏しなきゃいけない」

というものの言い方があります。

これ自体は、もちろんその通りでしょう。

しかし、この言い方が使われる「文脈」には多くの場合、問題があります。

その「文脈」あるいは、前提となっている考え方、または伝わるメッセージは

「自分なんかどうなってもいいから、譜面を正しく演奏しろ」

というものです。

つまり、譜面通に正しく演奏しようとして

・身体が緊張して、痛みや不快感があっても
→ そんなのはおまえの問題だから知ったこっちゃない。譜面通りに演奏しろ。

・まだ技術的にできないようなところがあって、不安や苦手意識が募っても
→ そんなのはおまえの問題だから知ったこっちゃない。譜面通りに演奏しろ。

・無理な奏法でミスしないように硬くなりながら演奏していても
→ そんなのはおまえの問題だから知ったこっちゃない。譜面通りに演奏しろ。

・その曲に取り組んでいて、譜面には書いていないが解釈や表現にインスピレーションが浮かんでも
→ そんなのはおまえの勝手だ。やってはいけない。譜面通りに演奏しろ。

という話になってしまいがちなのです。

譜面通りに、正しく、良い演奏をする。

それは「あるひとつの結果」です。

その「あるひとつの結果」ばかりが強調され、求められると、その結果に至る過程が見過ごされやすくなります。

それに、その結果に少しでも満たないものや、少しでも異質なものは「価値無し」という評価が下され、棄却されてしまいやすくなります。

しかし、その「あるひとつの結果」とは「異なる結果」に至った試行からこそ、また別の結果を生み出し目標に近付いて行く方法を洗練させていくことができるのですから、「異なる結果」を全部棄却しはじめると、試行錯誤の余地がなくなり、求める結果に向かって前進することすらできなくなってしまいます。

ではどうしていけばいいのでしょう?

鍵は、「自分」にあります。

音楽、譜面に書いてあること、共演者、聴衆。そういった存在との比較ではいつも後回しで、いつも最低の価値付けをされ、いつも犠牲にされる「自分」こそが、実はいちばん大切なのです。

譜面通に、正しく、良い演奏をする。

よくよく考えてみると、これほど難しいこと、高度なことはありません。

これはものすごく高い要求なのです。

誰だって、もちろんできればそうしたいと願っています。

でも、それが「いま、まだ、できない」から困っているのです。

それをできるようにしていくうえで、

・自分が緊張していることは役に立つでしょうか?
・身体が痛かったり、不快であったりすることは役に立つでしょうか?
・不安や苦手意識は、役に立つでしょうか?
・硬くて無理をした奏法は役に立つでしょうか?
・涌き上る音楽性、インスピレーションを殺すことは役に立つでしょうか?

どれも役に立ちません!むしろ逆効果ですね。

ということは、より良く、正しい結果に至るためにこそ、「自分」は良い状態でありたいわけです。

・無理のない奏法で、
・自己否定や変なプレッシャーを抱え込まず、
・音楽することそのものに嬉しさ、楽しさ、幸福を感じていて、
・自由でラクな身体と気持ちで

演奏に取り組むことこそが、結果をよりよくしてくれます。

そんな「自分」であるためには、

・自分への共感
・自分への応援
・自分への励まし
・自分への優しさ
・自分への寛容さ
・自分へのケア

が必要ですね。

自分が自分にそんな態度であること。そういう接し方、やり方であること。

それこそが、「譜面通りに、正しく、良い演奏をする」という非常に高度な目標へと近付いて行く最善の方法なのです。

さっきまでの、自分をイジメ、硬くさせ、押し潰して行くような考え方がすっかりひっくり返りましたね。

上記の意味で、「自分」を大切にし始めると、なんだか自分に甘くて、自分勝手な感じがするかもしれません。

しかし、自分を大切にする理由は、「より正しく、より良い結果のため」なのです。

だから、これは甘やかしでも気休めでもありません。

「自分」を第一に考え、自分に優しくしより良い状態にしていく。これこそが「ベストを尽くす」ということなのです。

忘れないでくださいね、譜面だけでは音楽は成り立たないのです。

演奏してくれる「あなた」がいてはじめて、音楽は存在するのです。

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譜面より「自分」が大事」への3件のフィードバック

  1. 去年も質問させていただきました。
    ブログを見ていると深く悩み過ぎていた気持ちが楽になりました。
    わたしは今高校生ですが将来はオーディションを受けてオーケストラに入りたいという夢を持っています。
    日々上達できるように自分と向き合い頑張っているのですが自分を褒めることができません。
    先生や先輩に褒めていただいてもこれで満足したらだめだと思い素直に喜ぶことができず否定的になってしまいます。そんな自分を変えるため個人練習のときなどちょっとした成長を見つけて自分を褒めるように心がけているのですが。
    なかなか思うようにいきません。
    お忙しいと思いますがアドバイスしていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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