指先までしびれるアドレナリン

今朝、いま盛り上がっている米大リーグのプレーオフ中継を見ていたら、ある選手(確か昨日、満塁ホームランを放ったゴールドシュミット選手だったと思う)が語ったコメントとして解説者が、

「彼の話によると、プレーオフというのはもうアドレナリンがものすごく出て指先までしびれる強烈な感覚がある、というんです」

かっけーなあ、と思うと同時に何だかとても印象的でした。
示唆に富む話なんじゃないでしょうか。

大リーガーたちはアドレナリンを味方につけて、楽しんでしまって、むしろウェルカムしているような節がある。

考えてみれば、私たちみんな、「ここぞ」というときのアドレナリンはウェルカムしたいんですよね。

アドレナリンが出ると、筋肉の張りが高まって、脳への血流も増えて、感覚が鋭敏になる。これっていいことですよね?

でもなんだか、クラシック音楽家(プロ・アマ問わず)の私たちはこの状態にむしろびっくりしちゃって萎縮しがちなんですよね。

エラそうに言ってるけれど、自分もそうです。

おそらく目的が異なる事でアドレナリンが+に働くときとマイナスに働くときとがあるのでしょうか。

ベースボールだと、ここぞってときに打って勝ちたい。チームの勝利という目的がある。エネルギーが自分以外の何かのために使われる。

目的が自分以外のもの、自分以上のものにつながっていると、人間はより強く、よりしなやかに働けます。(例:「自分が食う給料のために」より「家族のために」、「自分の業績を伸ばす」より「この会社の発展を願って」etc)

ベースボールはそもそもチームプレーでありチームの勝利が目的ですから、アドレナリンは+に作用しやすいのかもしれません。

反対にクラシック音楽家は、楽譜で「規定」されていて『正誤思考』が働きやすいです。(『正誤思考』コンセプトは辻秀一さん著「ゾーンに入る技術」に述べられています)『正誤』のことになると、結局は「自分の話」ばっかりになってしまう。「ひとから自分はどう判断されるか」という精神であり、それは正誤思考により「自分」は正しく演奏している/誤っているという思考回路に入っていきますからね。

ちょっと回りくどくなりましたが、クラシック音楽の場合とにかく「自分はうまくできたかどうか」が主な関心事になりやすいのです。

すると、アドレナリンは「尋常ならざる」状態を作り出しますから、いつもと同じように正しく演奏しようとしても、感覚も気持ちも大きく異なりますからアドレナリンは邪魔な存在になってしまうのです。

これって、もったいない話ですよね?

だって、アドレナリンは筋肉の張りを高め、脳への血流を増やし、注意力を拡大させてくれます。それって「本番/ここ一番」に欲しい状態でしょう?

それを、目的が自分の枠内に抑えられているばかりに、嫌がってしまうのですから。

アドレナリンが出て、手足が震えて、口が渇く。そんな状態は邪魔どころか本番で練習の自分を越える素晴らしい力になりうるのに。

先述のゴールドシュミット選手はこの状態を楽しみ、満塁本塁打につなげ、チームの勝利に貢献しました。アドレナリンが+に働いたのです。

では、私たちクラシック音楽家はどうしたらいいのでしょう?

自分という存在を越えた何かにつながる目的を見出す必要があるのです。

実はこれ、とても簡単。

だって西洋音楽の大半はそもそも、神であったり恋人であったり、他者に捧げる/伝える目的で作曲されています。

その曲自体が、「自分以外のものとつながる」媒体あるいは主体なのです。

ということは、私たちは演奏するとき作曲家、曲のメッセージ、神(注*バジル自身は特定の宗教を信仰しておりません)、曲が捧げられた近しい人など「届け伝えることでつながれる存在」があります。

そして何より、いま目の前に聴きにくれている尊い存在がたくさんいるのです。会場に来てくれていて、いまというこの時間を分かち合ってくれているひとたち。

アドレナリンは、この人たちとつながるために出ています。

ひとりっきりの練習室とちがって当たり前。自分以外の存在とつながり共有する非常に特別な瞬間を迎えているわけです。

心臓がドキドキして、手足が震えて、口が渇いて、全部それで正常。

いま特別なことが起きようとしているそのサインであり、
特別なことを実現するためのエネルギーなのですね。

やはり音楽の演奏というものは、本当に特別なものだと思います。

私はアレクサンダーテクニークの勉強を始めて、大人数を前に初めてたったひとりで数時間ワークショップをするという経験を積み始めています。

ある意味、オーケストラの中でホルンを吹くより「大変」「アガる」ような状況かもしれません。

しかし正直言うと、ステージでホルンを演奏するよりよっぽど簡単に感じています。緊張感やアドレナリンは音楽家としてステージに立つときのほうがはるかに感じます。

自分もできるかどうか分かりませんが、提案してみたいことがあります。

アガるぐらい自分はすごく特別なことを今まさに行おうとしているんだと考えてみませんか?

試してないので(最近は本番を入れていませんから..)何とも言えませんが、演奏活動をされているプロ/アマの音楽家のみなさん、気に入ったらぜひ試してみて下さい。

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