中学生管楽器プレイヤーの指導法

*この記事は、シリーズ「自己否定方式を見直す」の流れで書いています。大変ご面倒ですが、そのシリーズ全体を通して読んで頂いた上で、今回の記事の位置づけを理解して頂ければ幸いです。

ここまで、管楽器演奏に本気で取り組んでいるひとにプロアマ問わず多く見受けられる「自己否定方式」(詳しくはシリーズ「自己否定方式を見直す」をご覧下さい)について考察を続けてきました。

その意図は、「うまくなるために、健康や人間関係や幸福を犠牲にしてでもひたすら頑張る」という、多くのひとが使っている(もしくは使うべき/
使わなければいけないとどこかで思っている)やり方が、実は多くのひとにとっては上達にあまり寄与しておらず、身体を痛めたり、楽器演奏をやりたいという気持ちを損なわせてしまうリスクが高いことを明らかにし、頑張っても頑張っても、うまくなりたいのになかなか成果が挙がらず苦しんでいるひとたちにとって助けになるかもしれない異なる考え方とアプローチを提案することにあります。

今回の記事では、日本の管楽器プレイヤーの多くが中学生のときに管楽器を始めることを考慮しつつ、

・目の前の中学生が、人としての健康と幸福を大切にしたい管楽器指導者

・目の前の中学生が、プロアマ関係なくひとりの音楽家/芸術家として健康に成長し、世の中に素敵な芸術を提供し、世の中をより豊かにすることが長きにわたってできるようになって欲しいと願う管楽器指導者

のために、実際に目の前の中学生を指導するうえで、その願いを実現する助けになるかもしれないアイデアを述べます。

【怖がらせない】

社会を担う一員としての社会のルールを学び始めるのが、中学校という環境です。

小学校までは、先輩後輩という関係もそれほどありませんし、教員と生徒の関係もより保護的で養育的なものです。

それが中学校に入ると、教員は(中学生本人の感覚としては)いきなりもっと大人扱いをしますし、学校の先輩に対して敬語を使わなければいけなくなります。

多くの中学生にとっては、これはなかなか強烈な体験です。

「子供でいられないんだ」
「はやく大人にならなきゃ」

そんな焦りに似た気持ちを多くの中学生が感じています。

吹奏楽部への入部とそこで始める部活動もまた、つい最近まで小学校にいた子供たちにとってはかなりの負荷がかかります。

・まず、楽器が難しい!
・譜面の読み方が分からない!
・合奏などで使われる用語が分からない!
・合奏という行為自体が、高度に組織化された集団行動です。

これら全ての刺激を一度に受け取り、処理しているわけです。

このように急速に新しい環境や刺激に適応する自分なりの術を自らのうちに醸成していっている中学生は非常に敏感にまっています。感受性が高まっており、急速に変化と成長を遂げつつあるのです。たとえ、表面的にはおっとりしているように見えたとしても。

そのような時期にある中学生を何からいちばん守ってあげる必要があるか。

それは 恐怖と緊張 です。

大人になったわたしたちは、「先生」とか「先輩」という存在の威圧的な訓示や教訓の大部分が「建前」あるいは「精神論」であることを知っています。

しかし中学生にとっては、初めて感じるような雰囲気や、初めて受け取るような言葉の連続です。

ちょっとしたことでも、中学生にとっては非常に怖く感じられていることが想像以上に多いのです。

そういった恐怖を感じていると、もちろん身体が硬くなります。

楽器を演奏することを始めるまっさらなときに、硬くさせるように仕向けてしまうと、楽器演奏と緊張が結びついてしまいかねません。

その癖を後になってから直す苦労を、きっと指導者であるあなたはご自身でも体験されているでしょう。

できることなら、そういう回り道をさせずに、もっと始めからずっと楽器演奏をポジティブでアーティスティックな活動として体験させてあげたいと思いませんか?

もしそう願うなら、中学生の非常に鋭敏な感受性を尊重しましょう。そしてその感受性を怖さやしんどさ、辛さという体験に浸らせてしまわないよう、最大限の注意を払いましょう。

【不自然に感じるくらい褒める】

中学生に対してできる最善の指導は、

楽器演奏にまつわる体験をできる限りすべてポジティブなものにする

ということです。

確かに人生はうまくいかないことの連続です。

なかなか結果が出なくても諦めずに努力を続けることは人生を生き抜くうえで非常に大切です。

しかしだからといって、

うまくいっていいはずのことまで、苦しい体験にしてしまうのはおかしな話です

楽器演奏や芸術は、人生の苦しみではなく、人生の苦しみを和らげたり、苦しい時期にも希望を与えてくれるものだったり、苦しい中でも癒しを与えてくれるもののはずです。

人生や社会生活の「苦しみ」とその切り抜け方の「教育」を、楽器演奏や音楽活動において行おうとするのはあまり相性がよくありません。

自分の教え方や接し方の端々に、「苦しいことに耐えさせる」ことを学ばせようとする価値観が働いていないか、よくよくチェックしておきましょう。

わたしたちはびっくりするほどそういう教育が自らのうちに浸透しており、またそれで生き抜いてこれて、それでここまでやってこれていますから、どこかで楽器演奏や芸術は苦しいものだと信じ切っている部分があります。

そこをよく自覚し、問い直しましょう。

もし目の前の中学生の力を最大限に発揮することを助けるうえで、プレッシャーや不安が妨げになっていると感じたら、意識的に生徒に対する自分の接し方を変えていきましょう。

中学生に楽器演奏をするうえで自信と安心を根付かせる(プレイヤーとして成長する速度をそれがいちばん高めます)のに最も効果的なのは、褒める ことです。

あなたの生徒に対する接し方を変えるプロジェクトなわけですから、意識的に褒めることを選択していると、きっとはじめのうちはあなたの内に違和感や不安が伴うことでしょう。

しかし、おそらく自分が違和感を感じるくらいしっかり褒めちぎってはじめて、褒められている中学生は ほんとうに褒めてもらえた と感じます。

おだてるのでも、操るのでも、建前でもなく、本当に褒められたら、それはものすごく深い、一生涯にわたって自信と力、そして安心感を与えてくれ得ます

ふつうの社会生活の感覚では中学生自信が「ネガティブな評価」を下すであろうことにも、指導であるあなたがポジティブで前向きなコメントをしてあげましょう。

指導をするあなたが、少なくともあなたが付き添ってあげている時間帯だけでも、中学生たちにとって 濃密にポジティブな時間 になるよう、注意深く意識的にコントロールするのです。

・ミスがあったフレーズの中でも、良かった音や部分を取り上げ、それを真正面から褒めましょう。

・楽器演奏をしていること自体を、心から褒めてあげましょう。楽器演奏というのは、非常に芸術的な活動であり、それを選択している彼らの勇気や感受性を褒めてあげるのです。

・少しでも変化や上達があれば、それをしつこいほど褒めてあげましょう。継続的かつ大幅な成長を彼らが自らの力で成し遂げるためには、変化や上達が非常に価値ある喜ばしいものであることを知ってもらう必要があるのです。

【こまめに動くようにする】

身体的にも著しい成長期にある中学生にとって、イスに座ってじっとしていることは、実は身体にかなりの負担になっています。

身長、体型や体重が急速に変化しているので、自分の身体イメージの大幅な刷新が起きる時期でもあります。

楽器演奏は、楽器を安定させる必要があるので、身体的な息の作業を除いて静的になりがちです。

これが、中学生にとっては不快であり、また身体的変化に対する自分の身体イメージのアップデートを遅らせずらしてしまう原因になりかねません。

ですので、中学生を指導するときには、

・わざと足を組ませる
・わざと身体をかがみこませたり、逆に伸ばさせてみたりさせる
・立ったり座ったりさせる
・歩きながら吹かせてみる

など、一見気まぐれな感じでもよいのでレッスン中に「楽器を持ちながら/
吹きながら」動くという時間をちょこっと入れ込んでみるとよいでしょう。

また、疲れてきている様子が見えたら、楽器を置かせて、少しだけ散歩にいかせたり、屈伸させたり、イスにラクにもたれさせて休ませてあげたりするなどして、身体的なリフレッシュ&リセットを挟んでいくようにしましょう。

これにより、中学生の集中力や興味、やる気も高まります。

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